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(その3)ナギ

 長い間トンだけが抱えていた秘密だった。神々はトンに、話せる時期が来たらナギ本人のほかに、アニだけには話しても良いと仰った。今がその時だとトンは思った。

 「天にお願いして授かったアニとは全く違い、ナギは偶然授かった天の恵みのような子だ」とトンは言う。
 「桃の中に入って川に流れ着いたというのは本当なのか?ナギはどこの神の血筋なの?」とアニは訊ねる。

 「ナギは神の血では無く、怪物の血だ。遠い異国の神が、遠い異国の怪物サスの膝から、ナギを作られた。サスの100%直系だ。そして捨て子だった。異国の神は、サスと瓜二つの怪物を作ろうとした。しかし、ナギは人間の形で生まれて来てしまった。それで疎まれた。
 異国の神は、たまたま出逢ったこちらの神にナギの話をされた。捨てるならうちの川に流しなさい、うちの者たちは子供好きなので、拾って大切に育てるはずだ、とうちの神は仰った。そしてこの地で流され、俺が拾った」
 アニは驚いた。
 「サス・・有名な異国の天馬じゃないか。それでナギにはあんなに馬乗りの才能があるのか。サスは海神と怪物ドゥサとの間の子だったね。ナギは海神とドゥサの孫でもあるのか」
 「海神の血もひく天馬、この集落に最適な血だろう」とトンは言う。「ただ・・」と少し口ごもったが勇気を出して言った。「ドゥサの血がある。伝承のドゥサの話はあまりにおどろおどろしい」
 「馬乗りのナギがドゥサの運命をたどるとは思えないし、ナギ自身は自分の出自を切実に知りたがっているんだけどね。でもナギにはまだ言わないほうが良いだろうな」とアニは言う。