>>86
 アニは海神とドゥサの言い伝えに思いをはせた。
 ドゥサはそれは美しい少女だった。美しすぎて海神の愛人にされたあげく、女神の神殿で海神と愛し合ってしまったため、神殿を汚されたと怒った潔癖な女神に怪物にされてしまった。
 怪物になってからは血なまぐさく恐ろしいが、元はとても気の毒な少女なんだ。ナギの誘いかけるような魅力は、純潔美と背徳美を併せ持つドゥサの血をひいているからかも知れない、とアニは思った。

 少し疑問に思うことがある・・とアニは言う。
 「俺の血統とナギの血統は、本当にそんなに離れているのか?皆が、俺たち2人は似ていると言う。神々が何か大きなカン違いをしておられ、実は俺たちはとても近い血だったなどということは無いのか?それだと後々の血統にとても不味いことになるが?」
 「アニ、お前たちの容姿について普通の人間と同じに考えてはいけないよ。いいか、アニの素は風神のあばら骨だ。ナギの素は怪物サスの膝だ。アニはあばら骨の形をしているか?ナギは膝の形をしているか?アニもナギも神の創作物なんだよ。人間とはこういう形だという神のイメージがお前達なんだ。似てしまうのは当然だろう」とトンは笑って言った。
 
 アニは納得しない。
 「神のイメージの人間なら、ナギはどうして疎まれ捨てられたんだ?神は天馬をイメージしたのに、ナギはなぜ人間の形で生まれてきたんだ?」
 アニの疑問には理がある、と思いながらもトンもそれ以上のことを知らない。神がそう仰っていた、としか答えようが無い。
 ただ、顔かたちが似るかどうかについてのトンの持論はある。血統が近くても双生児以外はそうそう似ることは無い。人も馬も全血の兄弟でもそんなに似ない。全体の印象よりも爪の形とか肘の角度とか、部分だけが判を押したような形で似る。
 アニとナギが似ているのは部分では無い。むしろ遠く離れた地でも生き物は同じようなバリエーションが出現するものだ、という感慨に近い。