>>87
 最後に、トンはアニに忠告した。
 ナギが居たときにも言ったことだが、2人がしているところを誰にも見られないように十分気をつけるように。
 精通まもない頃に、アニを乳牛のところに連れて行ったことは得策では無かった。だからナギの精通は、機が熟すまで、皆に知らせたくないというのが理由の一つ。
 もう一つの理由は、さっきのナギの話では、ナギの筆おろしはアニのケツ穴だと言っていたが、それを皆が知ることになるのは、アニの権威にとって良いことでは無い。皆が許容しているアニとナギの関係は、あくまでアニの稚児遊びとしてのものだ。
 アニもナギも目立つ存在だから、2人のことは皆が興味を持っている。高嶺の花と知りつつ、心の底では本気でアニに惚れている馬乗り・船乗りも居る。ナギにしても同じだ。
 アニはアニ自身の権威で身を守っている。ナギはアニの権威に守られている。それが崩れるのは集落全体にとっても危険なことだ。

 アニは納得した。アニは稚児遊びの概念を知らなかったようだったのでトンは稚児遊びについても少し説明した。

 翌日、アニは、ナギの出自以外の話は全部ナギに伝えたと言ってきた。そして、早速できることから始めよう。いつでも乳牛のところへ行って種付けをするよ、今度は俺の筆おろしだな、と言う。
 「筆おろしがナギ相手じゃ無くても良いのか?」とトンは訊ねる。
 「だって・・まだナギは・・トンが教えてくれたように油塗ってみてもまだまだ全然。ナギにその時が来てからでかまわない。自分の筆おろしなんかこだわらない」とアニは答えた。
 「そうか、ほんとうにありがたい事だ」とトンは言った。