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 アニがなかなか呼ばないので、シンが心配そうに言う。
 「ずいぶん時間がかかってるな。大丈夫なんだろうか?行ってみようか?」
 「いや、アニの知的好奇心というやつで、あれこれ試しているんだろう。大丈夫だと思う。もう少し待とう」
 「そうか。それにしてもアニにはずいぶん心配させられたもんだが、やっとここまでこぎ着けたなあ。ハツが目出度く受胎してくれるといいな」
 馬と異なり、我々の種付は同じ相手と5日間続ける。乳牛の排卵はかなりずれる事があるから念のためだ。特にハツのような若い未通の乳牛は日を測るのが難しい。万一今回受胎しない場合は、また来月、種付けることになる。

 「今回、神は集会に参加されるのか?」シンが訊ねる。
 「アニが種付を始めたとお知らせすれば、今回はおいでにならないよ」
 「ああ、それは良かった。集会も平穏にすすみそうだ」
 「次につける乳牛のことも考えておいてくれ」
 「血統と受胎日からいけば次は熟乳のモモ。おぼこを続けるってことならサワになるかな」

 離れからハツの鳴き声が聞こえた。しばらくしてアニが呼ぶ声が聞こえた。
 「どうやら目出度く仕上げたか。さすが、やると決めたら立派なもんだ」

 アニはうっとりと寝そべるハツを抱き、髪をなでてやっていた。終わった後もこんなに優しくしてやる馬乗りは珍しい、とトンは思う。
 シンはハツの穴をさぐり、アニの白液とハツの破瓜の血が穴からこぼれるのを確認して「成功、成功」と言う
 「ハツは少しだけ言葉を話すよ」とアニは言った。
 「何って言ったんだ?」と聞くと
 「ああ、いぃ、いぃ、と何度も言った」とアニは言う。
 気のせいだろう、とトンは笑ったが、ハツならあり得るかも知れないとも思う。