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 「筆おろしの感想はどうだ?」
と、帰り道、トンはアニに訊ねた。
 「悪くない。無理なくできた」とアニは答える。
 「明日もハツに付けることになるが、良いか?」
 「ああ、もちろん。ハツは素直な良い子だと思う。無理矢理連れてこられた恨みもあるだろうに、素直なのはありがたいことだ」
 乳牛に対して見せたアニの優しさに逆に懸念を覚え、トンは言った。
 「ハツがすんだら他の乳牛ともやらないといけないぞ。気の荒いのもたくさん居る。そういう場合は俺たちも立ち会うことになるが・・」
 「性悪なのがたくさん居るのは知っている。初めて連れて行かれたとき、俺はぽをかみちぎられそうになったんだからね。ああいう時は、誰かに馬のように押さえつけといてもらって、さっと付けるしか無いんだろうな」
とアニは笑う。
 アニはちゃんと相手を見て対処できそうだ。ずっと馬を御してきた経験も大きいのだろう、とトンは安堵した。