(ハ上を反省している)(妄想)

必死の電話で叩き起こしてから数十分、どうやら配信は延期になったようだ。
「うん、それもありかもな」
程なくして彼女から着信。
さて、絶対とんでもないへこみ方しとるぞ。どうやって慰めるか。

「ごめんなさい……ごべんなさい……」
「まあしゃあないやろ。機材トラブルは本当やねんから」
「だって、理由がよりにもよって寝坊って……」
「別に、だれも不思議には思わんと思うけどな」
「楓ちゃんまで! 酷いですぅ」
変に慰めるよりは、いつも通りじゃれあった方が美兎ちゃんの性格上いいだろう。
重要なのはここからだ。

「明日の夕方、起こしに行ったろか?」
「ゔえ゙っ!? いやいやいや、いいですよ学校でしょ」
「昼に抜ければ間に合うし」
「いいですいいです、ちゃんと起きてますよ」
「ホントかなぁ……失敗を気にして夜寝れないとかありそう」
「や、薬物を服用してでも寝ます」
「それはやめとけ」
しばらくはただ雑談していただけ。彼女の調子が戻ってくるまで待とうと思った。
かち、かち。クリック音が聞こえる。何か見ているのだろうか。

「ううう、皆あったかいよぉ……」
「どしたん、なに見てるん」
「配信のチャットがね、優しすぎるよこいつら……」
「ああもう、ヘラるなっての」
配信の? 待機所のことかな、どれどれ。
『おやすみとみと』
『ゆっくり休んでください』
『気にすんなよ、たっぷり寝てくれ』
すごいな、ほとんど応援コメントで埋まってる。愛されてるなあ美兎ちゃん。

「よかったなぁ美兎ちゃん。クラスメイトの皆が優しくて」
「よくない。つい今さっきやらかした」
「なら、明日は失敗しないようにせんとな」
「……はい」
「よし。配信一時間前にコール入れたるわ。準備しながらお話して起きてような」
さて、これくらいなら受け入れてくれると思うが、どうだ。

「……お願いします、楓ちゃん」
「ん、わかった」
「寝そうになったらビンタして」
「ビンタはできへんけど目一杯の大声で起こしたるよ」
「あと、音声設定のやり方教えて」
「あーはいはい、まかせとけ」
思わぬところで通話の約束が取り付けられた。
別にラッキーとか思ってないし。まあ保護者義務みたいなものやし?
誰も見ているはずもないのに、心の中で言い訳をつぶやく私。

「あと、寝られるかどうか分からないのでもう少しだけ……」
「世話の焼ける子やね。ええよ、眠くなるまでお話しよな」
……やっぱり私は『役得』ってことでええか。

窓の外に見えるのは、黄金色に輝く十五夜のお月様。
目と耳で楽しみながら、お月見の夜は流れていくのだった。