「楓ちゃんってイッちゃう時、わかりやすいですよね」

思い出した。そうだ、ずいぶん前にそんなことを言われていた。
まだ美兎ちゃんがお姉さんぶっていた頃、いつでも最後にはタチに回って私を攻め立てていた頃。
最近はすっかり甘えん坊さんになって、私の指で悦んでいる姿ばっかりだったものだからすっかり忘れていた。
今日この日、吹っ切れたように突然美兎ちゃんがのしかかってきて、動転している間に手錠をかけられた。
じゃれてきたのかと思って振りほどかなかったのが失敗だった。

身体の記憶が次々に掘り起こされる。彼女は私の弱点をしっかりと覚えていて、的確に快感のツボを刺激されて。
もう既に私の中は散々かき回されていて、身体は内部から燃えるような欲望の熱に包まれていて。
急な坂を一気に走り抜けるかのように、最頂点は目の前に見えていた。
全身に痙攣が走る。焦点が定まらなくなって、口がだらしなく開いて、もう、限界、大好きな指に導かれてしまう。

「っと、駄目ですよ。楓ちゃん」

すっ、と快楽の波が離れていく。先ほどまで取り込んでいた指が、私の外へ逃げてしまっていた。
身体の熱は下がらないまま、頂上の目の前で、急にせき止められてしまった。何で、何でやめてしまったの。
体液にまみれた指が、胸の上をぬらぬらと這い回る。一番気持ちいい先端を避けるような道筋で。

「こんな簡単にイッたら勿体ないじゃないですか」

べとついた指が胸に沿って、おへそを通って、腰骨に触れて、内腿を伝って、遠回りしながら再び私の中心へ近づく。
お腹の下にもある大切な突起。今度は敏感なその部分の皮を捲って、しごくように攻め立ててくる。
うあ、ぁ、あ。快楽の波はお腹の奥ほどではないけれど、痺れるような刺激が背筋を一直線に走る。
彼女はここの攻め方も覚えていて、そうでなくとも火照った身体がまた高みに登り詰めていく。
腰が反射的に浮いてくる。そんなに早く動かされたら、もう、もう、駄目。視界が白く染まって……

「はい。まだ駄目ですよぅ」

再度、寸前で止められた。二度目のおあずけ。全身がぴくん、ぴくんと小刻みに浮き上がるほど求めているのに。
見下すような表情で笑いかけてくる美兎ちゃんは、何よりも憎たらしくて、何よりも妖艶に見えた。
けれども、もう私は限界だ。頭が焼けるように熱くなって、まともな思考もできないほど快楽に屈しているのだ。

「イキたいですか?」

うん、うん、逆らう気力も湧かなくて、早くご褒美が欲しくて、残った力を肯定する行動にひたすら消費した。
ふわっ。美兎ちゃんは両手で優しく抱き締めてくれて。
「いいですよ。もう何回か我慢できたら、イかせてあげますよ」
絶望するような残酷な宣告を言い放った。

あれから何度寸止めされたか覚えていない。景色は霞がかって、よだれも涙も呻くような声も抑えられなくて。
お尻の下が冷たい。一番多く零れていたのは声でも涙でもなく、強い興奮を示す体液だった。
今なら胸の先を触られるだけで達してしまうような気がする。けれども彼女は、決してツボを押してはくれない。
二つの突起は周りだけ、ナカは入口だけ。唇や首、耳、腋、お腹と気持ちいいのに登れないところを攻めてくる。

「ふふ、楓ちゃん可愛い。ほとんど白目になってますよ。」
そろそろかな、とか呟きながら私の耳元に近付いてくる。ああ、また耳たぶを舐められるのだろうか。
「楓ちゃん、わたしだけとしかこういうことしない、って誓えます? できたら思い切りイかせてあげますよ」
なんだ、そんなこと。私はいつでもそうおもっているのに。ちかいます。いっしょうまもります。あなただけに。

「……ふ、ふ、ふふ、良くできました」

瞬間、口は彼女の唇に塞がれて、片手でまとめて胸の突起をつねられて、私の中心部の一番奥をかき回されて。
ロケットのような速度で、幾重にも重なった快感が身体中を駆け抜ける。嬉しい、嬉しい、でも、強い。助けて。
声も出せないから全身を乱反射して、あちこちが気持ち良くなって。びくん、びくん、びくん、大きな痙攣。
大きな波が過ぎ去った後もくちゅくちゅと唇を弄ばれて、胸で遊ばれて、小さな波で何度も身体を震わせて。

「……ずっと一緒ですからね。浮気なんかさせませんよ」

薄れゆく意識の中で、関係性が変わっても根元は変わらないんだ、なんて思い知ったのだった。