――ママ、ラムネ食べる?
――ちょっとぉ、楓ちゃぁん。
私たちがお互いを呼ぶだけでも、変な空気が漏れ出てるのにはなんとなく気付いていた。
だから私は、皆とのコラボでは自らに枷をつけることにしたんだ。
「おい、樋口」
「樋口楓お前いい加減にしろ」
「じゃあ樋口に1ポイント」
まず、きっかけがあれば徹底して名字呼び。
普段通り呼んでいたらパパとかお父さんとかアナタとか、……ちゃん、とか出てしまいそうだったから。
今さら楓ちゃんが「樋口じゃない!」とは言わないだろうとは思ったし、結果も予想通りだった。
彼女にも何が原因で騒がれ、いじられるのかようやく掴めてきたのだと想う。
次に、全員へ公平にバランスよくディスしていって、特別感を減らすことも忘れない。
更に、泣き真似だって誰にでも分け隔てなく披露していって、皆と仲がいいことを強調していく。
とどめにアリバイ作り。一旦離れることを印象づけて、いかにも別行動であるように思わせるのだ。
うん、『わたくし』完璧。全く隙がなかった。移動中の電車内で手応えを確かめる。
私たちが今日の配信で騒がれることはないだろう。これは楓ちゃんのためでもあるんだ。
念のため、念のために。樋口呼びはわざとだった旨を伝えておこう。
まさか傷ついていることはないと思うが、あとで変に勘ぐられても困るからな。
一分もしないうちに返信が届く。
『すごく良かったよ今日のムーブ。完璧にただの仲がいい友達やった』
『かえみと派には悪いけど、今日の配信では何も感じなかったと思うわ』
『合流したら、たくさんなでなでしたるからな』
うへへ、褒められた。と、いかんいかん、電車の中でにやけてしまった。
私は『できる女』なんだからキリッとしてるんだ。それでまた褒めてもらおう、えへへ。
ヴヴッ。またDM。罰ゲームのアイコン画像か、うわぁきったな。
『すき、らぶ、らぶ、SUKI、だいすき』
ああ、油断するとゆるゆるだ。顔の筋肉までゆるゆる。