スピーカーの向こうから聴こえる声が表情を僅かに重くする。
「来月は……一回だけ、土日とも空きそうなんよ」
「ほぉー、それは珍しいですね」
それにどう返答しろと。なぜそこだけ私に伝えるんだと。なにが言いたいのだと。
まさかこれは私を遊びに誘っているのだろうか。いや、早とちりするな、落ち着け私。まだそうとは限らない。
「……それなら、ゆっくり家で休むこともできそうですねぇ」
「あんな? その前の日、金曜は東京で収録予定でな」
いやだから、それを伝えられた私は何て答えれば正解なんだ。
『あ、わたくしも居るから遊びましょー! うふふ』とか言えばいいのか?
できるかそんなの。もしも彼女にその気がなかったら黒歴史になってしまうわ。
「最近寒くなってきたから、なんか暖かいことがしたくなりますよね」
「暖かい……そう言えば私、露天風呂ってしたことなくてな」
来た……! これは脈アリってことでいいのか?
「ほ、ほぉーん。そしたらソレ、あれだ。行きましょうよ温泉」
「温泉、な。家族と昔行ったとき、人前で脱ぐのが恥ずかしくて泣いてしもてん」
ここだ、私を差し込むならこの弱味にぶちこむしかない。
「だ、だったら、家族風rン゛ンッ、えと、『わたくしで隠さなきゃ!』 ……なんて」
あっぶねぇ。欲望が八割くらい顔を出してた。
だけど、さあどうだ。私の選択は正しかったのか否か。
「ええのかな、温泉行っても。でも、うん、まあ。美兎ちゃんが隠してくれてるなら安心やな」
「でそー? なら適当に見繕っておきますよ」ぴっ。

――ふうぅーーー。
大きなため息。
――ッシ。
思わず小さくガッツポーズ。

樋口楓、何て面倒臭い女なんだ。
さて『温泉 露天 家族風呂』で検索検索っと。うへへ。