カメラに向かって背中を見せ、ゆっくりと振り返る真剣な瞳。
艶やかなうなじが目に焼き付く。一瞬で時が止まったような感覚。
楓ちゃんに心臓を鷲掴みにされたような心地がした。
けれども、この想いは私が育ててはいけないものだとも思ってしまって。
だから私の中で炎のように一瞬で燃やして、灰にしてしまうんだ。
その灰は心の引き出しに、こっそりとしまい込んでしまった。隠してしまった。
実は、もう私の引き出しはいっぱいいっぱいだ。
この前はおしゃれな冬服に一目惚れした。
その前はお揃いのハロウィン衣装に一目惚れ。
その前は和装と牙に。その前は下ろした綺麗な銀髪に。
私を見るふにゃけた顔に。拗ねた姿に。むっとした頬に。
力いっぱい歌う姿に。柔らかくて暖かい笑顔に。本番前の凛とした視線に。
初めて会った時の、不安げな表情に。
毎回惚れては想いを伏せての繰り返し。
同じ人に一目惚れするなんてあるわけないと思っていたのに、今ではすっかり日常みたいになってしまった。
気持ちを隠すようにしまい込んで、私は何がしたいんだろう。
彼女と結ばれたいのか。それも悪くないけれど、何か違うような、怖いような。
『恋人』なんて、誰しもが使っている言葉の枠に閉じ込めてしまうのも勿体ないような。
かと言って、どうしたいのかは自分でもよくわからなかったりする。
「美兎ちゃん、お疲れさま」
「もー、オタ芸とか余計お腹へるだけやろ、くひひ」
「ちょっと遅いけど晩ごはん行こか?」
でも、今の距離は一番楓ちゃんが素敵に見える気はしていた。
その証拠にほら、今もまた一目惚れしてしまったんだから。
「やった、楓ちゃんのおごりでメシが食えるよ。うへへ」
「ちょ、おごるなんて言ってへんよ」
引き出しの中身を見せるのは『どちらかが我慢できなくなって関係が変わった時』でいいかな。
笑顔でじゃれ合いながら、そんな風に思うのだった。