百合に対してただならぬ情熱があるらしい楓ちゃんの百合営業は独特だ。
あからさまにいちゃつくことはせず、質感というのを大事にする。好き好き大好き超愛してるなんて口には絶対にしないけど、いかにも矢印が向いているように振る舞う。感情の存在を匂わせる。
最初はそんな回りくどいやり方でいいのかと思ってたけど、これが大当たりでかえみとは一大百合コンテンツになったんだから楓ちゃんは間違ってなかったんだと思う。
百合営業と言えばアイドルとアイドルがべたべた絡むものだと思っていた私にとって、楓ちゃんの百合営業は目から鱗だった。こういうやり方もあるんだって。
ただ最近、いよいよ百合営業とは何か分からなくなってきている。
「限りなくガチに近い質感を出すためには、実際に体験してみることが大事だと思います。だからみとちゃん、今度の休みお出かけしよ」
「……それはつまりデートのお誘いですか?またインスタとかに匂わせ写真をアップしてポタクを弄ぶと?」
「それもええけど、今回は擬似デートをすることで今度のコラボのときに『こいつらデートしたんじゃね?』と思わせる方向で考えてる」
「……?」
「さりげなく『みとちゃん歩幅狭いもんな』とか『みとちゃんの私服ほんまダサくて』とかぶっ込みます」
「それはたださりげなく私をディスってるだけでは?」
「気安い感じに聞こえるやろ?彼氏面かよ、みたいな」
「あー、なるほど」
「あー、自分で言っといてなんやけど私服はええな。私がみとちゃんの私服選んであげて、でも選んであげたことは絶対に言わないみたいな」
「私が『楓ちゃんはやっぱお洒落ですよ』みたいなこと言ったらいいの?」
「んー、『楓ちゃんと服の趣味が合わない』とか『すーぐヤンキーコーデする』みたいなディスでもええよ。みとちゃんに任せる」
「まあー、楓ちゃんはお洒落ってイメージありそうですし、そっち方向でいきましょう」
「ありがと。で、いつ行こっか?」
にやにやと嬉しそうに手帳を取り出す楓ちゃん。いや、これ、もうただのデートでは?
何に対して営業しているのか。何を目的に営業しているのか。
なんかもう分かんないけど、楓ちゃんが楽しそうだし、私も楽しいし嬉しいので、あんまり気にしないことにした。
ほんとにダサいと思われるのは嫌なので、一番かわいい格好をして行こうと思う。


(楓さんと美兎さん、また百合営業ごっこやってる……本人たちは真面目に営業してるつもりみたいだけど、正直茶番にしか見えないんですよね)ピコピコ