「うぅ〜、今日も寒いですねぇ」
「そんなにたくさん着込んでてまだ寒いんや」
厚手のダッフルコートに長いマフラーをぐるぐるに巻いて、もこもこ姿の兎は声もなく「ん」と頷いた。
「もうすぐ美兎ちゃん家やから。少しだけ頑張ろうな」
「あい……」
ずっと見ていて飽きないくらい可愛い仕草なのだが、ちょっとだけ困ったことがある。それは。
「ただいまー! うおぉあったけぇ! 暖房のタイマー入れといて良かったー!」
ぽいぽい。家に着くなり身に付けているものを次々に脱いでいく美兎ちゃん。
面倒臭いのか、ソファの上に軽く畳んで上着やマフラーを重ねていく。
「こーら、ちゃんと仕舞わんとまたシワに……」
――ほわん。
あっ、来た。いつもの、美兎ちゃんの強い香り。とってもいい香りの、美兎ちゃんのフェロモン、来た。
「えー、あとでちゃんと片付けるから。少し休ませてー」
こら、抱きつくな。やばい。厚着で長く歩いたせいか、いつもよりもっと濃いにおいが充満しとる。
「あれ……楓ちゃん、顔赤いよ。大丈夫?」
そう思うんやったら離れてください。原因はあなた本人ですよ。
「ねえ、鼻がひくひくしてるけど。もしかしてわたしの匂い嗅いで変なこと考えてる?」
いや、違くて。これは身体が勝手に、生理的反応というか。やだ、もう離れて。少しあっち行ってや。
「ふへへ、全然力が入ってないですよ。どうしようかな、離れようかなー」
と、抱きついていた力が緩んで体温が遠ざかる。ちょっと残念だけど、よかった、これで少し落ち着い
「やっぱ、やーめた!」
……信じられないことに、非力なはずの兎に押し倒された。私は本当に全身の筋肉が脱力してしまっていたのだ。
仰向けに寝そべった顔へ、彼女の慎ましい胸が押し付けられる。汗混じりの魅惑的な香りに一瞬で包まれる。
「目がハートになった楓ちゃん、かわいい。ほれほれ、わたくせのおっぱいですよー」
柔らかくて脳に響くにおいの物体で、ぐりぐりと鼻を擦られる。それだけで私の身体はがくがくと震え上がって。
「楓ちゃん、暑いでしよ。ほら、ぬぎぬぎしましょうねー」
手慣れた様子で上半身が丸々剥がされる。私は口も半開きで、ピンク色の香りを享受するのにいっぱいいっぱいで。
「スカートの中は……え、嘘でしょ、お漏らししたみたいになってるじゃん」
うっさい、ばか。自分でここまでやっておいて意地悪を言うな。こっちは帰り道から悶々としてたのに。
「ごめんね、脱がせすぎちゃってきっと寒いよね。これ、私のだけど着けてて」
そう言って私の顔に巻き付けられたのは、先ほどまで身に付けられていた彼女のマフラー。
美兎ちゃんの、首もとの、一番いい香りが染み込んだ空気を直に吸わされて。
息苦しいのに身体は悦んでしまって、涙まで出てきて、うー、うー、と呻いてしまう。
「へへ、これいいでしょ。今日はわたしが攻めるから、いっぱい気持ちよくなってよね」
内腿に彼女の手が滑り込んできていた。今触られたらきっと五秒も持たない。だめ、だめ、近づいてこないで……!
「逃げても駄目。ね、思いっきり、イッちゃってくださいね」
……結局、何度も何度も導かれてしまった私は、朦朧とした意識の中でこんなことを思った。
――いつもはここまでじゃないのに。力くらいは入れられるのに。
・・・・
「もしもしモイラ様、例のアイテム。フェロモンを三倍にする『フェロミーナ(N)』ってやつですけど」
「あれ、匂いフェチを相手にするときだけレアリティを上げた方が良いですよ。はい、SRくらいまで」
「さーて、次の女神ガチャが楽しみですねぇ」エッエッエッ