『ソフトSM体験キット(R+)』……対象者はなじられて悦ぶ身体になる。相方はなじることしかできなくなる。
何だよこのアイテムは……。確かに私はヒロピンが好きだけど、これはさすがに気が引けるぞ。
かと言って、楓ちゃんから暴言をぶつけられる想像はしたくない。考えただけで泣いてしまいそうだ。
「……うーん」
対象者はどうしますか、という表示を前に考え込んでしまう私だった。

・・・・

「歯も磨き終わったやんね。さ、そろそろ寝よか」
「う、うん」
何だか今夜は美兎ちゃんの様子がおかしかった。晩ご飯のあたりから一言もまともな言葉を発しないのだ。
忙しくて疲れてるのかな、それとも悩みでもあるのかな。芯が強い彼女でも、時にはそういうこともあるだろう。
だったら私にできることは限られている。優しく強く抱いてあげて、元気のない美兎ちゃんを暖めてあげよう。
布団に入るなり「寒いやろ」と彼女を抱き締めて私の体温をダイレクトに分け与える。
んふふ、美兎ちゃんは私のおっぱい大好きやもんね。好きにぬくもってくれてもええんよ。
「おい、気安く触んな、無駄に育ったデカチチを押し付けんな!」
えっ……。普段の美兎ちゃんなら言わないような、とんでもない暴言で殴り付けられて身を引いてしまった。
「……んんっ。美兎ちゃん、なんでそんなこと言うん、よ」
不思議なことに、私は全く怒る気にならなかった。どころか、彼女の言葉が全身を駆け抜けるような感覚がして。
もう一度強く抱え込んだ。ごめんなさい、私が不快にさせたのなら謝りますから、どうか機嫌を治してください。
「はあ? ホルスタインの分際で命令すんのか!? 手を放せよこの豚野郎!」
先ほどよりも美兎ちゃんの語気は強くなっていて、私を全力で責めているのが伝わってくる。
けれども、彼女の表情はまるで泣いているようだったから。言いたくないのに言わされているみたいだったから。
「大丈夫、私は何を言われても大丈夫やよ」
そう言って改めて全身で包み込んであげた。すると、身体中に美兎ちゃんの嗚咽が響いてくる。
「うっ、ふざけんなよ、わたしが、どんな気持ちで、いると思ってっ、ひぐっ」
「いいよ。全部私にぶちまけちゃって」
「ぐすっ、いくら言っても察しもしないで。この、どんかんっ、にぶちんっ」
「うん。ごめん」
「自分だけ辛ければいいような顔しやがって、自己満足にも程があるぞ馬鹿っ」
「うん。ごめん、ごめんな」
「お前が思ってるよりずっとお前の評価は高いんだから身の程を知れ、このクソ野郎」
「うん、うん。わかった、ありがとな」
私を責める彼女の言葉はキツいものだったけれど、決して私を蔑ろにするものではなくて。
本当に私に足りないことを。きっと正しいことを言ってくれているんだ。だからむしろ嬉しかった。
彼女の気が済むまで受け止めてあげよう。夜が明けたら、こんなに悩ませてしまったことを謝ろう。そう思った。
美兎ちゃんはその夜ずっと口汚く私の文句を言っていたけれど、全て甘んじて受け止めた。

・・・・

昨夜は本当に酷い言葉ばかり浴びせてしまったから、起きると同時に楓ちゃんに平謝りした。
「……ごめんね、楓ちゃん。昨日は言い過ぎました」
「ええよ。私のことをあんなに真剣に考えててくれて嬉しかったから。私こそ、心配かけてごめんな」
「そんなっ、楓ちゃんは全然悪くないから」
「ふふ。でも美兎ちゃんがそう言ってくれて嬉しいから、ちょっとだけ抱きしめさせてな」
涙声のまま、表情を見せないように首元へ顔を埋める彼女。悪いのは私だし、背中を撫でること位しかできない。
正直、もっと怒られるかと思った。アイテムの対象者は『無し』にしたのに私は暴言しか吐けなくなる状態で。
楓ちゃんだけ何の状態変化もなく、罵詈雑言を浴びせられる環境だったのだから。
「美兎ちゃん……」
「なんですか?」
「このまま、一回シてもいい?」
「いいですよ」
いくらでも滅茶苦茶にしてください。酷いことを言ったお詫びにいくらでも責められてあげますから。