あけおめ

くしょくしょ寒いド深夜の東京を、息を切らして駆ける。タクシーは捕まらない。呼んでる時間が惜しい。
卑怯だと思う。一週間ちょっとの間に送られてくるのは変な画像とどうでもいい話だけだったのに、こんなときばっかり「会える?」なんて。
今からとか、何時にとかの指定もないし、場所の指定もない。私が知るだけでもみとちゃんは東京に3つ拠点があって、今どこに居るのか私は知らない。
それに、送られてきてたのは一時間くらい前。あのみとちゃんが、すぐに寝ちゃうみとちゃんが起きているかはもう怪しい時間なのに。
くしょくしょ寒いド深夜の東京を、息を切らして駆ける。みとちゃんの家へ。みとちゃんの元へ。

カイロ代わりの缶コーヒーが冷めきった頃に、ようやく私はみとちゃん家の前に居た。
起きてるか分からないし、インターホンが直ったって話も聞かない。私はラインを開く。「今みとちゃん家の前に居る」。まるで都市伝説みたいな文だけど、上手い言い方を思い付かなくてそのまま送信する。
一秒、二秒、三秒……。既読はつかない。でも、ドアの向こうでドタバタと慌てた音がした。
金属が軋んで、隙間から見慣れた頭がひょっこり覗く。
「楓ちゃん……?」
「来たよ」
「とりあえず上がって……冷たっ」
みとちゃんに手を引かれるまま玄関をくぐる。
煌々と灯りがついた部屋は温かくて、ほっと息をついた。こぽこぽとお湯を沸かすポット、何かの作業中のままのパソコン。
「ずっと起きてたの?」
「いやあ、まあね」
「なんで?」
「……初日の出を……」
「ほんまのこと、聞きたい」
みとちゃんはガチ照れして、もしょもしょと口を動かした後小さな声で言った。
「楓ちゃんが……来てくれないかなって、ちょっとだけ期待してたから」
「そっか」
卑怯だと思う。その言葉だけで、寒い中走ってきてよかったって思ってしまう。ご来光を見るよりも、みとちゃんに会えてよかったって思ってしまう。
「みとちゃん」
「なに?」
「あけましておめでとう」
「はっ……あけましておめでとうございます。今年もよろしく」
「うん、よろしくな」