先輩にはしてもしきれないほど感謝している。
私たちはメッセージアプリのID交換ができたおかげで、なんでもないやり取りが気軽にできるようになった。
今だって、年が明けて半日も経っていないというのに何件か楓ちゃんからの通知が飛んできている。
さてさて何かな、ほいよっと。

『窓越しだけど綺麗に撮れた』

ほうほう、富士山の脇から顔を出す日の出ですか、正月にぴったりの写真が撮れましたなぁ。
天気にタイミングに席の位置にと、相当ツイていなければこんな綺麗には撮れんだろ。元旦早々演技がいいな。
しかし、富士山ってことは新幹線なのかね。相変わらずがっつりと移動しとりますなあ、たくましい。
まあ、それはそれとしてで返信しないと。あっ、いいねボタンをまた指が自然に探してしまった。
「やるやん……と。あとはスタンプを」

翌日。ぴんぽーん。

まだ午前中だというのに来客。宅配便ではないとしたら、もうあの女しか心当たりがない。くそ、やられた。
「やっぱり貴様か!」
「何がやっぱりなんよ……明けまして、おめでと」
「お、おめでと。ことよろ」
「はーいことよろ。初パジャマ姿、ごちそうさまです」
パジャマを拝むな気狂い女。私は今起きたばっかなんだから、お茶でも淹れて飲んでろ。あ、私の分も頼むわ。
「へ、あの写真を背景に……?」
「そうそう、今度JK組お正月配信の時にでも」
なるほど、なかなかいい案ですな。自分で撮ったなら著作権フリーだし、良い画像だしで文句の付け所がない。
ものは試しと、パソコンで簡単に私と楓ちゃんのアバターを合成してみた。おお……これは思ったよりも。
「うわぁ、ええなあこれ。くふふ、美兎ちゃんが後光を差してるみたいに見えるわ」
「……ほーん……」
正直に言って、相当に良い出来なのは間違いない。軽く見入ってしまうくらいには素晴らしい一枚だった。
それはそうだ、良い画像に良い顔がふたつも並んでいるのだ。イチ富士ニ美兎サン楓だ。我ながらセンスねえな。

でも。

「楓、ちゃん」
「ん? なぁに」

結局あの背景は配信で使わないことにした。顔が映り込んでたとか不満だったとかではなく、そう私が頼んだだけ。
「まさか自分専用にしたいとか言い出すなんてなぁ。くひひ」
「……笑うなひぐちィ」
私は、私たちふたりが素敵な風景で並んでいるところを見て『独り占めしたい』と思ってしまったのだ。
ごめんなさい先輩。せめて代わりの背景を今日のお出かけ中に見つけてきますので。
「美兎ちゃん、そろそろ出発しよか。神社の写真とかええかもよ」
「その手があったか。任せたぞカメラマン」
「自分で撮りーや」
「わたくせは加工するからいいんですぅー!」

結果的に、画像は独り占めではなくふたり占めになってしまった。
でも何一つ問題なんてないし、むしろ望むところだったから。まあいいか。