「最近の美兎ちゃん、胸ばっかり見んくなったよね、えらいえらい」
うるさいうるさい。人のことを色欲に目覚めたばかりの男子中学生みたいに言うな。
「前は少し動いただけで脚とかスカートをガン見してたから。一応私も恥ずかしかったんやからね」
何だその物言いは。まるで私が年中サカりっぱなしの兎みたいじゃないか。
「まあ、やっと私と居るのにも慣れてきた、ってとこかね」
確かに、これだけ一緒に隣り合ってれば多少は慣れも出てくるかもしれませんね。

ところが全然。全然そんなことはなかったのだ。

私の視線は胸でも太ももでもなく、いつもの通りにでれんと垂らされた楓ちゃんの腕の末端に向かっていて。
白魚のように透き通って綺麗な彼女の指先から目が離せないでいて。
あの薬指が、あの中指が、昨夜も私を狂わせた。私の脳を欲情の沼に沈めてしまった。

楓ちゃんの言葉に合わせてくに、くに、と動く指たちを見る。
ちゃぷ、ちゃぷ、と身体のなかに受け入れた音が聞こえてくるような気がして。
彼女のドヤ顔と同時にぴん、と伸びる指たちを見る。
つん、つん、とお腹の一番奥をつつかれてがくがくと身の震えた感触がリアルに甦ってきて。
思い起こせば、初めて関係を持ったときもこの指で夢中にさせられた。

――つぷ、つぷぷ。

私が生まれてはじめて、身体の内側へ他人を招き入れた瞬間のこと。
「美兎ちゃん、痛くない? 辛くない? 大丈夫? きつかったら言ってな」
目一杯の心配を降らせながら、楓ちゃんの指は有り得ないほどゆっくりじわじわと私のなかに侵入してきた。
指のかたちが手に取るように伝わる。今まで働いたことなんてなかった内壁の神経が研ぎ澄まされる。
確かにちょっとはひりひりしたけれど、楓ちゃんの優しい声ですぐに内部には潤いが生産されていって。
初めてなのに「あ、これは駄目だ、夢中になってしまうやつだ」と素直に感じてしまった。
その夜の私が最後まで登り詰めたかどうかなんて覚えてはいないけれど。
やたらと胸が幸せで満たされていたことは、今でもはっきり思い出せる。

――ぢゅこ、ぢゅこぢゅこぢゅこ。

いつしか、はしたない私のなかはすぐにべとべとになってしまって、下品な音を奏でるようになってしまった。
楓ちゃんがわざと大きな音を立てて私の内部をシェイクしていることは承知している。
その音を聞いて、どうしようもなく羞恥心でいっぱいになってしまった私の表情を見て喜んでいることも。
すぐに本能から絞り出される甘い声を我慢できなくなる私。それを耳で楽しんでいることも知っていた。

彼女と寝る度に心が幸福に満たされて、身体が快楽に満たされて、脳が楓ちゃんだけで満たされて。
それを操るのは目の前でわきわき動いているこの指なんだって考えると、とても目を離す気にはならなかった。
「んふふ、エロ兎だった美兎ちゃんもようやく清楚に少しだけ近づいたんかもな」
ごめんなさいね、答えは真逆なんです。楓ちゃんのせいで、えっちなことしか考えられなくなっちゃったんですよ。
楓ちゃん、今夜も抱いてほしい、明日も抱いてほしい。その先も、その先もずっと気持ち良くしてほしい。
他の人は何も感じないであろう、私だけが色気を感じている指先を見つめながら。
心の中でだらしなくおねだりをし続ける私だった。