こちらに背中を向けたまま、こたつに下半身を食われている楓ちゃんがスマホを見ながら呟いた。
「まだ20日じゃん」
「やー、なんか。もう今年も終わりって気分になってる」
「ちょっと。新年会に出るって日になに言ってるんですか」
「だぁってぇ」
そのままんーっ、と伸び。こいつ、またこたつで寝る気なのでは?
まあ、分からないでもない。ライブが近付くに連れ忙しくなり、それに年末の特番とかが重なり。今年がもう終わりそうというよりは、慌ただしく過ぎ去った去年の年末気分を今更感じているってことだと思う。
ライブが終わった後も配信に次ぐ配信だけど、これでも去年の8月辺りよりは配信が少ないっぽい。相変わらずの鬼体力だ。しずりん先輩といいマジでどうなってんの?
そういやこいつ、ちーちゃんと遅くまで配信してたな……。移動中に寝てはいるだろうけど、それでももう寝た方がいいんじゃないだろうか。そう思って楓ちゃんを見れば、スマホを持った手が絨毯に落ちている。だめじゃん。
私では楓ちゃんをベッドには運べないため、起こそうとして身を乗り出した。その瞬間に、寝てると思ってた楓ちゃんがぐりんとこちらを向く。
「うぉっ」
「みとちゃん3月ひま?」
「えっ、3月?」
至近距離でじーっ、と見つめてくる。えっなに、なんでガチ恋距離?と思ったけど、顔を近づけてたのは自分だ。
机に置いていたスマホのカレンダーを見る。3月、3月……今のところ予定はほとんどない。
「たぶん暇」
「なら、どっかの土日空けといてもらってもいい?」
「いいけどなに?」
「マビノギの布教とかライブとか色々、やりたいことやってきたけど。去年言ってて結局できてないのがあるなーと思って」
「なんかあったっけ?」
「楓と美兎4時間耐久やりたい」
「あー」
もう半年以上前だ。次は寝落ちじゃなくて耐久したいって話。楓ちゃんの中で百物語はノーカンらしい。なるほど。
「いいよ、やろう」
「ほんまに?ありがとう。前みたいに途中でふにゃふにゃにならんといてな?」
「私の体力のなさから言って保障はできないわ……」
そう答えれば、楓ちゃんの目が妖しく光った、気がした。
「特訓する?」
「……おい、樋口楓。明日……じゃない今日は何がある日ですか」
「だから手早く済ませるって」
「いや、そもそもあれ特訓っていうか調教みたいな……やめろ!こたつでしようとするな!こたつ用の布団これしかないんですよ!」
「掛け布団で代用できるから」
「そういうことじゃな……あっ♡」
体力を使いきりバーちこしかけたけれど、責められるべきは私ではないと思う。
ちなみに楓ちゃんはぴんぴんしていた。