「あ……楓ちゃん」
「おはよ。体はいける?」
「回復した、と、思う。たぶん」
「そっか。そこのセブで朝ごはん買ってきたから食べよ」
「ありがとう……」
体力は戻りきってないのか、みとちゃんはなんとなくだるそうな表情のままちんまりと座っている。
「おにぎりとかよりはこういうパスタとかがええかなと思って」
「うん、たぶん食べられる」
「アベマは行けそう?病み上がりなんやし、無理せんでもええよ」
「行く。大丈夫。……後で払うからレシートください」
「え、ぐしゃってして捨てた」
「あのさぁ……」
いや、だって。私が勝手にしてることやし。
みとちゃんが寝込んでると聞いてからは早かった。解散してからすぐにみとちゃん家に上がり込んで、できるだけお世話をした。
最初は迷惑かな、お節介過ぎるかなって思ったけど。
ぶちまけられた2リットルのアクエリのペットボトルと、何と間違って買ったのか分からない正露丸とがベッド脇に転がっているだけの散らかった部屋。荒い呼吸を繰り返してぶるぶる震えていたみとちゃん。
私が来なかったらどうなっていただろう。来たところで大したことができたわけじゃないけど。
薬を飲ましたり、ぐずるみとちゃんをあやしたり、そんな看病(?)の甲斐あってみとちゃんは回復したみたいだった。
みとちゃんは浅い眠りから覚める度、「このまま死んだらどうしよう」と嗚咽を漏らした。「色んな人に迷惑をかけてしまった」と涙を流した。
だから、みとちゃんが起きている間はずっと、みとちゃんの傍で手を握って、大丈夫だよって言い続けた。みとちゃんの泣き顔は心臓に悪い。見たくない。
ごぉごぉ唸る電子レンジをぼんやりと見ていたら、突然ばさっという音がした。振り向くと、頭を下げて髪を振り乱したみとちゃんの姿。え、なに、貞子?元気になったのは良かったけどむりむりむりそういうイタズラあかんやろ!!
と思ったら違うっぽい。みとちゃんは視線を落としたまま肩を震わせている。
「ごめんなさい」
「え?」
「楓ちゃんに迷惑かけて……えるちゃんとか、しずりん先輩、とか、いちからのひとにもニコニコのひとにもっ……めいわく、かけて、わたしのせいで」
条件反射というか、気がつけばみとちゃんを抱き締めていた。
「みとちゃんは悪くないよ」
「わたしが自己管理できてないからぁ……ちゃんと予防とか、できてなくて」
「風邪引くときは引くから、それはしゃーないって。それに、いちからとかニコニコの人はまあ、分からんけど、私も凛先輩もえるちゃんも迷惑なんて思わん」
ちーん。おい空気読めクソレンジ。
「でも……」
「病み上がりだから色んなこと杞憂しちゃってるだけや。だから心配せんでええよ」
「……うん」
ぼさぼさになった髪を指で梳かす。歌声と寝顔と髪質は清楚だ。そうだ、後でお風呂張っとかんと。
頭を撫でるついでにぽんぽん背中を叩けば、それこそ幼児をあやしてるみたいだけど、みとちゃんは嫌がらなかった。基本的にみとちゃんは甘やかされるのが好きなんよな。
「それより、やっぱり今日アベマ休まん?こんなクソザコなみとちゃん外に出せんし、泣き虫みとみとはキャラとちゃうやろ」
「泣き虫みとみとってなんやねん。わたくしは泣いていても清楚なのでキャラ崩壊じゃないですー。つーか一期最終回に病欠は本気でヤバい」
「でも今のみとちゃん、ちょっとメンタルにダメージがあるとヘラピンになりそう」
「オラツキノミト、オマエノセイデヨォ、ドンダケノヒトニメイワクカケタトオモッテンダ!?」
「なんか違わん?」
「わたくしも思った。……あの、楓ちゃん」
「なぁに?」
「楓ちゃんがお昼まで甘やかしてくれたら……メンタルも回復するかも……みたいな」
「ええよ」
迷わず即答する。甘えんぼの割に、みとちゃんから素直に甘えようとするときは照れが見える。元気になったならちょっとくらい……。
ちーん。なんで二回も鳴るんやクソレンジ。
「とりあえず、朝ごはん食べさしたる」
「お願いします」
その後で甘々に甘やかしてやるのだ。
「ちょちょちょ楓ちゃん巻きすぎ、巻きすぎ」
「ん、口開けて」
「いやだから巻きすぎってあ゛っづぁ!?汁、汁が跳ねてる!なんでスープパスタなんだよ!」
「担々麺よりマシやろ」
「いやうどんとかそばとかあったでしょ!やめろ!無理に口に入れようとあっちぃぃ!」