「楓ちゃん?」

夕暮れ時。
薄暗くなり始めた部屋で、電気もテレビも付けることなくソファーに座っていた彼女に声をかける。

声に反応してチラリとこちらを向くが、すぐにまた膝元に視線を移す。

「やっぱりですか」

ソファーの前に回れば彼女の膝を占領する猫が一匹。
存分に撫でられ気持ちよさそうな猫を横目に、わたくしもソファーに座る。
猫はピクリとも動かずに彼女の手を満喫している。

わたくしもちょっかいでもかけようと手を伸ばしかけたが、以前同じことをして逃げられたのを思い出してひっこめる。

「仕方がありませんね」

楓ちゃんもいつでも撫でてあげられるわけではない。
夕方のひと時くらいは楓ちゃんを貸してあげますよ。
だた、撫でる楓ちゃんを、撫でられる猫を、わたくしだけがただ見ているのはさみしい。

「もう一匹わたくしだけに懐く猫でも飼いましょうか」

何気なく言った言葉に、一人と一匹が視線を向けた。
二対の瞳がじっと私を見つめる。

「冗談ですよ」

視線に耐え切れず先ほどの言葉を否定する。
次の瞬間にはもう一人と一匹の世界に入っていた。

「はぁ」

隣の彼女にも聞こえないくらいそっとため息を吐いた。
さすがに電気位付けるかと立ち上がりかけた瞬間。

肩に重みを感じた。

「にゃー」

普段聞くのとは違う猫の鳴き声。

肩に乗った大きな銀色の猫の頭を頬で撫でる。
彼女の微かな笑いが触れ合った場所から伝わってくる。
つられてわたくしも笑う。
とても幸せなわたくしたちの部屋。