美兎ちゃんは私の胸が好きすぎるらしい。
疲れた時、へこんだ時、何かをやり遂げた時。ことあるごとに私の胸へ抱きついて甘えに来るのだ。
最初は単なるセクハラだと思っていたが、本人曰く「断じて違う」とのこと。
確かにいわゆるやらしい触り方はしていなくて、読んで字のごとく「顔をうずめる」だけ。
支えるためか胸の外周や脇の下を抱えてなぞる程度だったので、触られていても疑わなかった。
何より彼女に甘えてもらえることが嬉しくて。小動物みたいに頭を撫でられることが幸せで。
私自身が癖になっているのだから、この無駄に育った胸を差し出すことなんか安いものだった。
「でへへ……可愛いですよ楓ちゃん」
だから、こんな状況はおかしいはずで。
ちょっと触られただけで全身の力が抜けてしまうなんてあり得ないことで。
馬乗りになった美兎ちゃんが不適な笑みを浮かべている。可愛いはずの兎はすっかり発情した顔で。
手の平はいつも通り胸の外周に添えられているだけだったけれど。
彼女が指に力を入れて身体の側面が圧迫されるたびに、爪先から首筋に向けて電気が走る。
お腹の下がむずむずして、自然に膝を立ててしまって、両脚を擦り合わせてしまう。
うそやろ、なんで何もされていないのにえっちな気分になってしまうんよ。
「開発、してみるもんですねぇ。スペンス乳腺って本当だったんだ」
すぺ……? 思考に靄がかかった頭では何を言ったのか理解できなかった。
そんな私を知ってか知らずか、服の上から胸の側面が上下に撫で上げられる。
マッサージする時みたいに指を立てて、肌の奥へ刺激を届ける触り方で。
「や、それ、くすぐったい」
私は身体をくねらせるも、ぎゅっと抱きついた彼女は手を緩めてくれない。
どころか「騒ぐな」と言わんばかりに体重をかけて、唇で口を塞いで私を布団の上へ磔にしてくる。
駄目なんやて、そこ触られるとワケ分からんくなってしまうから。
「はぷ、ちゅ……ね、楓ちゃん。おっぱいだけでイッてみよう」
そんなの無理やて。こんなの脂肪の塊やから気持ちよくなんかならんよ。
とりあえずくすぐったいから一回離れてや。シたい気分なら私が沢山気持ちよくしたるから。
「ほーん……こんなびしょ濡れにしておいて、まだすっとぼけるんだ」
ぶぢゅ。美兎ちゃんが後ろ手を伸ばすと、脚の付け根あたりから酷く粘っこい水音。
そんな、まだなにもされてないのに。濡れる要因なんていいとこキスくらいしかなかったのに。
本当に私は胸で感じているのか? こんな神経が通っているかも怪しい部分で?
「ね、わかったでしょ。我慢しないで気持ちよくなってね」
ぐに、ぐに。美兎ちゃんは乳房と脇の間あたりを揉みほぐしていく。
すると先ほどのむず痒さが全身を走って「っふ」と吐息のような声が漏れてしまう。
彼女が本当にそういうつもりで触っていると自覚したのはまずかった。私も気分がシフトしてしまうから。
「ほら、ほら。気持ちいいなら教えてくださいね」
ぐりぐり。指の力も触れる速度も徐々に増していって、ぴりぴりする快感が強くなってきた。
私は「だめ、だめ」なんて言葉を紡ぐのが精一杯で、身体が弾けないように耐えるだけで。
気持ちいい、きもちいい。みとちゃんにことばでいじめられながらおっぱいせめられるのきもちいい。
「はい、よく言えました。ご褒美にちゅーしてあげるね」
あは、うれしい。いちばんきもちいいときにいちばんくっついててもらうのってしあわせ。
美兎ちゃんは口を合わせたまま、ぐしゃぐしゃと私の弱い部分を掻き回して高みに導こうとする。
そんなに強くしなくても私は限界なのに。いつイってもおかしくないのに。
次の瞬間。布団から腰が跳ねて、つま先立ちになって、身体中の筋肉が緊張のピークを迎えた。
触られていないはずのお腹の下とお尻の中心がきゅっと締まった感触がして、意識が消えかかって。
しばらくぶるぶると震えたあと、へなへなと美兎ちゃんごと腰が降りてきた。
「おほ、おっぱいだけで本当にイっちゃったんだ。楓ちゃんのえっち」
だって、それはみとちゃんがしたから。
そう考えるけれども言葉が出てこない。息が切れて、脈打つ心臓の音が後頭部に響いて。
胸の先端ならまだしも、乳房を触られた程度では絶対に気持ちよくないと思っていたのに。
「さて、今度はどこかと同時に責めてみますか。楽しみですねぇ」
オタクっぽい引き笑いをする発情兎はやっぱり可愛くて。
今夜は仕方ないと覚悟を決めつつも、明日は覚えてろよと考える私だった。