「俺はこの世界に残る」

そう決意した瞬間、鎧食いが手元から消えた。
もう後悔は無い、俺は愛すべき武将たちと共にずっと…

次の瞬間、恐ろしいほどの違和感に気がついた。
目の前にいる武将達が、歴史の本や教科書に出てきた姿になっている。
そして…自分を見る目が妙に熱い…
目を潤ませ、頬を染めるおっさんや老人達。さながらそれは地獄絵図。

ここで俺は全てを悟った。
鎧食いは何らかの目的の為に、武将達を見目麗しい女人に見せかけていたのだと。
俺一人がそれに気づかず、手当たり次第にホモセックスに興じていたことを。
周囲は俺を、ストライクゾーンの広い男色武将として認知していたということを。

にじり寄ってくる武将達、家康、秀吉、そして信長…
嫌だ、こんなはずじゃなかったのに…
嘆いても後悔しても、もう手元に鎧食いは無く、呼びかけにも誰も応じない…

「軍師殿」
聞き覚えのあるイントネーション、だが少々ハスキーな声に振り返ると…
そこには無邪気な笑顔を浮かべる、髭面の武将がいた…

その声を最後に、俺は意識を失った。
これは悪い夢なんだ、次に目が覚めた時には元に戻っているように。
戻ってくるのがこの世界なら、いっそ一生目覚めないでくれと…

                                         いくさひめ   完