イブキ交流2

執務室には、俺とイブキだけがいた。
@イブキ 「……っと、大体こんなものだろうか。 王子、少し確認してもらえないかな?」
そう言って、イブキは俺に大量の書類を手渡す。 見れば、そこには数えきれぬほどの人名と共に、 何かを説明する文章と、
俺には到底理解することなど 出来ないと思わせるような難解な数式と図形が記載されていた。 これは一体……?
@イブキ 「キミの軍内にいる者たちに関する詳細な情報と、 個々に適した軍事訓練、 そして教育方針の選定といったところかな」
ふふ、といつもの彼女らしい 自信に溢れた微笑と共に言葉が返ってくる。 @イブキ 「こうしてキミと多くの時間を共に過ごすようになって分かったが、
王子の軍には、実に様々な経歴や性質を持っている者たちがいる」 海賊まで仲間にしていることには少々驚いたが、と 一笑と共に言葉を挟みつつ、
尚もイブキは語を継いだ。
@イブキ 「皆が皆、一騎当千とは言えぬが、各々の得意とする分野にあっては、 それぞれが一流と呼んで差し支えないほどの技量と素質がある」
@イブキ 「だが、それを最大化できていないと感じるのも事実だ」
@イブキ 「だからこそ私は、軍内における人事、 そして教育における改革を行おうと決意したのだよ」
@イブキ 「――と、 少し前にケイティやアンナと話し合ったのだが、 もしかして
聞かされてないのか?」 ちゃんと耳に入っているさ、と返しながらも、 俺は自らの内に生じていた驚きを隠せなかった。 何故なら、
そうした改革は当分先の事だと思っていたからだ。 急激な軍内の体制の変化が招く失敗や不和。 これまでのやり方を変えることで起こる反発。
それら諸々を考慮しなくてはいけないという思いが、 自らの決断を鈍らせ、尻込みさせる。
だからこそ、彼女の決断や行動を素晴らしく思いながらも、 同時に、些か性急すぎるのでは、という認識と感想が生じ、
反論の弁となって言葉に変わっていた。
@イブキ 「何が性急なものか……」
@イブキ 「いいか、王子?」
@イブキ 「人生に早すぎることなんて、何も無いんだ」 そう言うと、彼女は俺に近寄って、
前にされたのと同じように、 俺の顎先に指を添えてついと持ち上げる。
@イブキ 「人生とは、力の限り生きてこそ価値がある」 彼女の美麗な顔が、 吐息が触れるほど近くに迫る。
@イブキ 「我々人間は大概が 無限の可能性を秘めていると言われて育つが……」
@イブキ 「その実、有限の時と命を抱えて生きている」 ふわりと香る甘い匂いと、 説き伏せるような力強い声音が耳に心地良い。
@イブキ 「だからこそ、王子……」 @イブキ 「……失敗することを恐れるな」
@イブキ 「穢れや刃こぼれを厭い、 真新しい刀を使わないなんてのは馬鹿な生き方さ」
@イブキ 「……だから、胸に秘めたる熱意を糧に生きろ、王子」 @イブキ 「キミの人生に、出し惜しみなんてものは似合わない……」
@イブキ 「……そうだろ?」 そこに理屈なんてものはない。
彼女の言葉に含まれた情に、 俺は感銘を受けていたのだ。 だから、肯いの言葉と共に、 頷きを返してしまっていた。
@イブキ 「ふふっ……良い返事だ、王子」 顎先から、イブキの手が離れると、 そのまま彼女は俺の頭を少しだけ乱暴に撫でる。
@イブキ 「そうと分かればさっそく行動だ、王子」
@イブキ 「キミの軍はまだまだ強くなる……」
@イブキ 「いや、この私が絶対に強くしてみせるからな」 見慣れた、けれど決して見飽きる事の無い、 彼女らしい不敵な微笑と共にイブキは
言う。 その確固たる意思に同調するようにして、 俺はイブキと共に、窓外の空が白むまで 軍内に関することを、話し合うのだった。