「聴こえましたか」
男が云つた。蓄音機の剛吠から出るやうな聲だ。
うんとも否とも答へなかつた。夢の績きが浮かんだからだ。
「誰にも云はないでくださいまし」
男はさう云ふと虹の鉢を持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。
鉢の中には縞麗な娘がぴつたり入つてゐた。
判子絵のやうな顔だ。
勿論善く出來た人形に違ひない。
人形の胸から上だけが鉢に入つてゐるのだらう。
何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまつた。
それを見ると鉢の娘もにつこり笑つて、
「ふにー」
と云つた。
ああ、生きてゐる。
何だか酷く男が羨ましくなつてしまつた。