全国の警察が変死などとして扱った十五人が、新型コロナウイルスに感染していたことが判明した問題。

そのうちの一人が、東京都世田谷区の社員寮で急死した五十代の男性会社員だった。

単身赴任中の男性は発熱後、保健所に相談しようとしたものの電話がつながらず、PCR検査を受けられたのは発熱から六日後。
検査結果が出たのは、命が失われた後だった。

死に至るまでの状況を証言したのは、男性の友人。取材に「遺族が嫌がらせを受ける恐れがある」と、会社名など身元を特定する情報は報じないよう求めた。

友人によると、男性が発熱したのは今月三日。その少し前から職場の上司に発熱とせきがあったため、男性は九州の自宅に残る妻に
「新型コロナに感染したかもしれない」とLINE(ライン)でメッセージを送っていた。

男性は世田谷保健所の相談センターに何度も電話したが、回線が混み合っていたためか、一度もつながらなかったという。

男性が自宅待機していた七日、上司はPCR検査で陽性と判定された。
男性は会社から「濃厚接触者に当たる可能性がある。検査を受けるように」と言われ、再び相談センターに電話したが、またしてもつながらなかった。

かかりつけ医が保健所に連絡してくれたことで、男性は二日後の九日にようやく検査を受けられることに。
だが、病院は検査を受ける人であふれていたようで、妻に「結果が出るまで一週間かかると言われた」とメッセージを送っている。

入院することもなく寮に戻った男性。「せきがひどくて眠れない。胸が痛い」「薬局に薬を届けてもらった」。

十日夜、妻にラインで状況を伝えた後、応答がなくなった。翌十一日、寮で暮らす同僚が部屋に様子を見に行くと、既に息絶えていた。

警視庁玉川署は変死事案として捜査。妻が死因は新型コロナによる肺炎だと知ったのは、同署に呼ばれた十三日だった。

密封された遺体は、防護服姿の署員によって葬儀会社の車に積み込まれ、妻との対面がかなわないまま火葬された。
同行した友人は「明るくて健康なラガーマンだった。一人でいながら一向に保健所に電話がつながらず、どれほど不安だったか」と唇をかんだ。