城内を歩いていると、サボテンが壁に向かって何やらごそごそと動いていました。
どうやら壁の汚れを掃除しているようです。
「なにしてるんだゆ?」
サボテンはその手を止めて、こちらをちらっと見ました。でもすぐに顔を真っ赤にしてうつむいてしまいました。
「壁の……掃除。……汚れてたから」
サボテンの手には、使い古した歯ブラシが握られていました。
「そんな大した汚れじゃなくて……その、これで落ちそうだったから」
たしかに壁は茶色の何かで汚れていました。近づいてみると、焦げ臭い匂いと共にハエが飛んできました。
「この汚れがついてから、……恐らく、日が浅い……。だから、綺麗にできる。絶対に、落とす」
サボテンは歯を食いしばって、ブラシを壁にこすり続けましt。力を入れすぎて髪が乱れていくのも気にせずに、必死に壁を磨いていきます。
「ゆーん……くさいゆ……」
「汚れたままのものが……ダメ。許せない」
じゃんゆはサボテンがどうしてそこまで必死になるのか分かりませんでした。
壁の汚れなんて、そこまでして落とすものなのかな。パパと一緒にアイスを食べるほうが、ずっとずっと幸せだと思う。
じゃんゆがサボテンの邪魔をしていることは分かってる。でも、東の窓からパパがこちらをじっと見ているから、じゃんゆはサボテンを手伝うことにしました。