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右塔フ菓子20
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0001実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/09(月) 08:50:51.220
このスレ内で語られる内容は完全なフィクションです。
実在の個人及び団体とは一切関係ありません。

 ∩ ∩
(`皿´) <なんだよwおいでw
./σ ヽσ  
(し′/し′
.\\\
 。\\\
 +///+ 
゚///+゚。
(_)_)゚
0006実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/10(火) 21:17:19.270
新スレ記念に。
―――――――――――――――――――――――――――――
 毒々しい血の色よりもそれを連想させるこっくりとした赤色、そのマニキュ
アを丁寧に短い爪に塗っていく。
 彼の大きな手を取って、長い指の切り揃えられた爪は、たちまち知らない誰
かの顔になってしまう。似合わねえよ、と露骨に眉を寄せて嫌そうに吐き捨て
る彼も、まあそう言わないで、とやさしげな声をかける俺も、今夜は酔ってい
る。
 ただ、飲んでいた場所はふたり別々だった。
 そして彼は俺の知らない香水の匂いをさせている。
「お前のが似合うって」
「アベ君塗るの下手くそそうだからダメ」
「オレの指、ささくれてんじゃん。ウエノの指の方が断然キレイだって」
 俺のアベ君はどこもかしこもキレイだよ、と言ってみれば、猫の目で薄く笑
った。
 真夜中。
 月の光もどこかへ消えた夜。
 いつものように酔って俺の家の玄関を叩いたアベ君は笑っていた。どこぞで
飲んでいたらしい、酔っ払いらしく名前も知らないような女を食ったらしい。
 女って勝手に濡れるから楽でいいな、と無邪気に感心していた。
 まあねえ、と答えた俺も今夜は女を抱いていた、確かに男とは違うやわらか
さで、鳴けよ、なんて言わなくても勝手に鳴いてこちらの劣情をそそってくれ
た。
 アベ君のポケットには女がマーキングのためにでも忍ばせたのか、銀のリッ
プケースに入った口紅。
 うちの絨毯の上には、同じく女が落として行ったと思われる真っ赤なマニキ
ュア。
 人間のメスは縄張り意識が強いのかねえ、なんて笑って、そしてアベ君の手
を引いた。マニキュアを塗りたかったのは、多分それが似合わない彼に安心し
たかったから。
 彼が、女の代わりでないことを、確認したかったから。
0007実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/10(火) 21:31:19.700
 ヒゲなんだからさ、と文句を言う俺を無視して、アベ君は嬉々としてこちら
の唇に口紅を塗る。
「似合ないも甚だしいって」
「本当に似合わない……あ、はみ出した」
「はみ出させんなよ……」
 これ、さっきあんたが抱いた女のなんだろう? そんな女と間接キスかよ嫌
だなあ。そう言ってみれば、アベ君ははたりとまばたきをして俺の目を見る。
視線が絡んで、それは空気の密度でも濃くしてしまうのかそれとも逆なのか、
ひどく息苦しくさせる。
「勝手に間接キスなんてしてんなよ」
「や、ちょっと待てって、アベ君がさせてんだって」
「ダメ。ウエノはオレの」
 カン、と乾いた音がした。アベ君が口紅を投げ捨てたのだと、視線で追って
ようやく知った。なにしてんの、と笑おうとしたのに、真っ赤な爪の手が伸び
てきて俺の頬と顎の部分を包んでしまったからできなかった、彼の影が落とさ
れて唇が奪われる。舐められる。
 強引に割り込んできた舌が、アルコールの匂いのする息を絡める。出口を捜
して滅茶苦茶に暴れる獣みたいに、アベ君の舌が俺の口内を犯す。舌が絡むど
ころの騒ぎじゃない、暴動だ。小さな暴動。でも確実に息は上がる。
「ちょっ、待っ……」
「待たない」
「アベ君、」
 唇は離されたけれど、額に額が押し当てられた。微かに引っ掛かる視界の隅
で、彼が俺の目を覗き込んでいる。乱暴に唇が拭われた。彼の手に、かすれた
血のように移るルージュ。それは、真紅。
0009実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/10(火) 22:17:34.050
「女なんか、抱くなよ」
「それはこっちの、セリフ」
「オレはいいの、ただの発散だから」
「俺だって発散だっての」
「オレで発散すりゃいいじゃん」
「……アベ君、無茶苦茶言ってんの分かってる?」
 分かってない、と拗ねたような声をしていたのは気のせいだろうか。
 じゃあする? と聞いてみる。
 他の女と間接キスしたお前なんて、と彼が目を細める。
 マニキュアの持ち主の方とは直接関わったのに、そっちはどうでもいいらし
い。変な思考。分かる気はするけれど。だって、時々、それはほんの時々だけ
ど、直接キスするよりアベ君の飲み残しのビールに口をつけたときの方がはる
かにときめく、そんなときが俺にだってある。

 黒いシャツのボタンをはずして、白い肌に指を走らせる。
 右胸、乳首のわずかずれた下に気胸の手術痕はある。それは微かに盛り上が
っていてつるりとした手触りをしている。
 そちらを撫でている振りをして、指の腹をすべらせたかのようにして突起を
刺激する。
「あ……っ、」
 こぼれた声が甘くて、俺の頬は持ち上がる。にやけてしまうのは、どうやっ
たって女達にはアベ君のこんな声を出させられないと知っているからだ。
 ああ。
 俺も嫉妬してるんだ。
 自分のことは棚に上げて、彼が女を抱いたということに。
 男と女では身体が違う、そもそも受け入れるものとぶちこむものなのだから、
磁石の同じ極同士が引きつけ合って求め合いくっつくなんてこと自体がおかし
な話だ。
0010実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/10(火) 22:59:46.250
 だけど俺達は惹き合う。
 それは男とか女とか、入れ物としての身体を越えてしまったところで。
 アベフトシという魂を。
 ウエノコウジという魂が。
 シャツを首から引き抜くように脱いで投げ捨てた。そのままの勢いでアベ君
のベルトに手をかける。タイトな革パンの前はもうきつそうに張り詰めている。
 解放されれば楽だろうに、彼はいつもそこで恥じらう。外見に似合わず。そ
して俺は嗜虐と愛しさとが混ざって、アベ君を滅茶苦茶にしてしまいたくなる。
うんとやさしくしてやりたくなる。
 オレばっか攻めてんなよ、と彼の手が伸ばされる。
 寝ようとしていたから灰色のジャージ姿だった、だからスウェットはゴムで
簡単に引きずり下ろされてしまう。
「あ、勃ってる」
「勃ってるに決まってんだろ」
「やったんじゃないのかよ」
「女?」
 そう、とアベ君が小さく頷いた。赤い彼の爪がボクサーパンツ越しに俺を撫
でる。硬くなったものの輪郭をなぞって、少しずつ力を入れる。
 鼻から甘い声と息が抜けた。
 彼の手。
 彼の指。
 けれどいつもと違う、毒々しい色を爪に纏っただけなのに、それは知らない
誰かの手になる。よく知る動きをなぞっても。それは興奮と共に小さな恐怖も
連れてくる。
 子ヤギを誘い出すために、母親の声を真似た狼。
 これは本当のお母さん?
 これは、本当の、君?
 間違えないと心に誓っても、騙される現実はある、愛されていると、愛して
いるとそれが同じだけの力で引き合っていると、釣り合っていると、信じてい
るのがもしも自分だけだったらどうしよう。
 アベ君の手が。
 俺を追い詰めようとして焦れる。下着に手をかけて。引きずり下ろそうとす
る。
0011実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/10(火) 23:15:40.870
「待てって、」
「待たない」
「なんか……そんな爪してると、アベ君じゃないみたいで変」
「お前が塗ったんだろうが」
 くつくつと喉の奥で笑う彼の顔を見る。
 キスをねだったわけじゃないのに、唇が。ゆるりと触れる。
「俺、まだ口紅、ついてる?」
「ついてない、もうお前はお前の唇の色、してる」
「アベ君」
「なんだよ」
「抱かせて」
 じゃあ今やってんのはなんなんだよ、と軽口をたたくその唇を塞いで舌を差
し入れる、ベッドの上で身を返してアベ君を組み敷く。はだけたシャツから覗
く肌にくちづけを落とす、軽く開いて吸いついて、小さな面積できつく痕を残
す。赤紫色の小花が、白い肌に散る。
 左手で彼の腕を押さえつけて、右手で先ほど緩めた下半身、布のすべてを潜
り込んで直に触れる。色付いた息が、彼から洩れる。それが、俺を高ぶらせる。
 触って。
 握り込んだ熱の重量。
 確かにここにあるという存在感の誇示。
「ウエ、ノ……!」
 ゆるゆると扱けばアベ君が切なそうに身をよじる。
 張り詰めたそれは何もかもを狭く感じさせて、解放されたくて仕方ないとで
もいうように俺の手の中で脈打つ。すでに滴りそうな、ぬめり気のある液体が
俺の手の中で卑猥な音を立てる手助けをする。
「脱がせる? 手でする? 口でする?」
 意地悪い声をわざと作れば、彼は俺の手を振りほどいて両手を伸ばしてくる。
俺の首に絡めて、もっと、とねだる。
「気持ち、い……い……」
「このまま一回イっとく?」
 やだ、とアベ君が首を横に振ったから、俺は彼のものを握る手に力を加えた。
親指の腹で強めに撫で上げる。アベ君の口から意味のある言葉はもうこぼれて
こない。ああ、と深い溜息のように、淡く色づいた欲情がそのまま落ちる。
0012実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/11(水) 19:18:40.100
 肌を重ねて。
 体温を共有し合う。
 元々の温度は違うはずなのに、それはいつしか混ざり合う。
「あっ、……あっ、く、ウ、ウエ……ああっ、ウエ、ノ……!」
「イって」
「や……やめ、あっ、……いや、だっ……エノ……っ、」
「アベ君……おかしくなって、イって」
 頭を真っ白にして、俺のこと以外考えられないようになって。
 意識も飛ばして、俺のことだけ欲しがって。
 俺の。
 俺の、どうしても一番、好きな人。
 他に女を抱いても満たされない想いが、まだ交わってもいないというのにこ
の人に触れるだけで埋められていく。
 それがなにか間違っていることなのだというのなら、俺は正しいことなんて
なにひとつ知らないままでいい。
「アベ君……」
 俺は彼の耳元に唇を落とす。
 くちづけの雨を降らせる。
 彼の手の甲にかすれて残る真紅に、俺は嫉妬している。あれを消してしまい
たい。この手に触れていいのは俺だけだ。この指が触れるのは、俺と彼の大切
なギターだけだ。他のものはなにも。なにも、触れさせたくない。
 追い詰めているのにアベ君は荒い息のまま俺の頬を両手で包んだ。
「ウエノ……」
 なに泣きそうな顔してんだよ。彼は途切らせながらの言葉をこちらに向けて
微笑む。
 そして、熱い息のまま俺の唇を、奪った。
――――――――――――――――――――――――――――――
お粗末さまでした、お付き合いありがうございます。
0014実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/15(日) 12:59:58.080
過疎っているうちに。なんかいつも[=.・з・]が乙女でごめんなさい
そしてエロくもなくてごめんなさい
――――――――――――――――――――――――――――――――
 桃を食おうと言い出したのはどちらからでもなかったけれど、台所で熟れて
やわらかな香りを放つ白い肌を見ていたら考える前に手が伸びていた。
 絡まり合った後のけだるげな腕にナイフと白桃、アベ君はソファの上で黒い
ボクサーパンツだけ身につけてだらりと仰向けになっている。
 似たような格好で咥え煙草、俺は自分の匂いでもありアベ君の匂いでもある
紫色に透ける白い煙を唇の端からこぼす。
 なに、といつもより細められた視線が向けられて。
「痴情の縺れによる殺人ごっこ?」
「嫌だねえ、アベ君と刺し違えるの」
 桃食う? と聞けば、ぼんやりとしたまばたきの後で彼が小さく頷いた。
 長々と寝そべるアベ君の脚は見事にはみ出していて、俺は彼の腰の上にまた
がる。
「重くない?」
「誰が? 羽みたいに軽い」
「嘘吐け」
 はは、と笑われて、騎乗位みたいだと言われた。
「たまにはウエノに突っ込みたい」
「いいけど、アベ君強引そうだから」
「いや?」
「俺のがテクニシャン」
「言ってろよ」
 彼がやわらかく笑うのは、多分少し眠いせいだ。
0015実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/15(日) 13:21:41.140
 桃の割れ目に沿ってナイフを入れる。
 くし形に切って、皮をはぐように剥く。灰皿を寄せて皮を落とすと、甘い香
りが漂う。
「灰、落とすなよ」
「うん。口開けて」
 素直に開けられたアベ君の口へ、桃の一切れを落とす。ナイフに乗せたまま
すべらせたので、彼の目が少しだけ真剣になるのがおかしい。
「美味い?」
「甘い」
 彼の手が伸びて、白い指が俺の唇からタバコを奪った。ひと口吸ってから、
眉を寄せる。そのまま灰皿の方へ見当をつけたらしく、投げ込んだ。
 俺はそれをまた取り上げて、ガラスの底面に押しつける。
「どうしたの」
「桃が甘かったから、タバコが不味い」
「口直しする?」
 うん、とアベ君は再び口を開ける。
 まだ桃は剥けていなかったので、俺は身体を折りたたんで彼の唇にくちづけ
る。
「……そうくるか」
「待ってよ、今剥くから」
 すぐに身体を起こしたのは、刃物が危ないからだ。ナイフを持つ方の肘でソ
ファを押して、桃を持つ腕でバランスを取って。
 次を剥けば、雛のように口を開ける。
 俺は次々に果肉を種の部分から切り離していく。皮を剥く。
 甘い香りが広がって、空間を侵食する。俺の手はべたつく桃の汁で汚れる、
腕をとどまらなかったそれが伝う。
「そんなに美味い?」
「喉が渇いてたのかもな」
「そんなに鳴いたっけ」
「そんなに鳴かされたよ」
 お前に。
 アベ君が目を細める。彼の形いい、少し尖った鼻を見ていたら、なんだかた
まらなくなって自分の腕を近付けた。
0016実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/15(日) 13:52:31.900
「なに」
「匂い」
「ああ、桃の」
「美味そう?」
「うん?」
「俺も、美味そう?」
 美味そうだよ。
 彼はそう言ってナイフを握ったままの俺の手首を取る。寄せられて、舌が伸
ばされる。
 赤く尖らせた舌が、俺の腕を。舐める。
「……甘い?」
「ウエノの味がする」
「桃の汁だよ」
「ウエノの肌の、味がする」
 いいな、と俺は答える。
 俺にも味あわせて。
 俺には、あんたの肌のがいい。

 包丁は持たない、と言うアベ君に、剥いた最後の桃のひと欠片を渡した。口
に入れてやらなかったので、意図を察したのだろう。俺がナイフと種をテーブ
ルに乗せ終わるのを待って、こちらの口に近付ける。
「あーん、ウエノ」
「あーん、って。なんかな」
「ウエノっぽい?」
「俺?」
「ウエノはいつも、オレをそんな感じで甘やかす、」
 ……気がする。
 アベ君の語尾は桃の香りがする。
 口の中に常温の桃がすべり込む。甘い香りが鼻に抜ける。アベ君の指をその
まま舐めた。軽く歯を立てると、彼は笑った。
「オレは食えないよ」
「食っちゃいたいほど可愛いよ」
「や、オレは可愛くないだろう」
そんなこともないんだけれど。俺の目にはこの細く黒い、長身の男が可愛く
て仕方なく映る。
「じゃあ、食いたくなるほど好き」
 どっちの意味でだよ、とアベ君が言う。
 どっちの意味でもだよ、と俺は答える。
0017実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/15(日) 15:52:08.240
 彼は俺の桃に濡れた手を取って、丁寧に舐めていく。伸ばされた舌の、ぬる
りとした感触。この舌が俺の口の中で暴れたり、俺のものにおずおずと絡んだ
り、喘いで軽く開いた口からそっと覗いたりする。それを、俺はよく知ってい
る。
 同じように、アベ君が、俺の舌がどれほど丁寧に彼を味わっているのか、い
つも、いつも、細胞に染み込ませるように記憶したがっているのかを、知って
いればいい。知らなくても、いい。多分、知らないだろう。
 愛されることに溺れて欲しい、ゼリーの海でもがいても沈んでいくしかない
ように、俺の愛で溺れて。窒息して。俺がいなければ生きていけないくらい、
沈み込んで、呼吸も忘れるくらい。溺れて、溺れて、溺れて。
 なんて。
 言わない。
 俺はけして言わない。
 それは誰にも秘密の欲望、口にしてしまえば格好悪くなる、俺は大好きで大
切な彼に逃げ場をきちんと与えてあげたい、這いつくばってまですがりつきた
い俺の気持ちは、それはまた別の問題で。
 もしも彼が俺以外の誰かを愛することがあるのなら、いつだって鳥かごの鍵
は開けておいてやりたいと思う。
 それがただのやせ我慢であっても。
 恰好つけた負け犬の強がりであっても。
 俺は。
 俺、は。
「ウエノ?」
「……あ、」
「なにぼけっとしてんだよ、オレの舌使いはそんなに上手いかよ」
「ああ、うん、上手い。上手いよ」
「……ムカつくなあ、お前。くそう、桃の汁結構べたつくもんだな、どうする、
もう一回、」
「もう一回、する?」
「……なんでそうなるんだよ、シャワー浴びるかって話だっての」
 浴びる。
 言いながら俺はアベ君の腕を取る。
 桃の香りがする指を丁寧に舐めてやる。人差し指、第二関節の辺りにくちづ
けて、舌を這わせる。親指を、アベ君のものでもしゃぶるかのように音を立て
て口の中で弄ぶ。
0018実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー2013/09/15(日) 16:28:44.700
「……やめろよ」
「その気になるから?」
「……なんかお前、泣きそうだから」
「泣き……そう?」
 桃が甘すぎたな、とアベ君が小さくあくびをした。
 甘すぎたから、きっとなんだか泣きたくなったんだろ。
「そんなもん?」
「そんなもん。やっぱシャワー面倒」
「うん」
「舐めて」
「え?」
「ウエノが舐めて、全部キレイにして。オレ、そんで寝る」
 人の家のソファだと思って、べたつくのなんてどうでもいいんだろうと言っ
てやったら、猫みたいな顔をして笑った。口角が上がる、機嫌がいいときにだ
け見せる、目尻の下がった猫。
「ウエノ」
「なに」
「好きだ」
「……なに、」
「桃が甘かったから口がすべった」
 俺はアベ君の手を取って指を絡ませる。舐めてやんないといけないのはオレ
の方だったか、とおどける彼の、その唇にくちづけを落とす。
 俺も好き。
 あんたのことが。
 俺も、好き。
 桃の香りが空間を満たす、俺とアベ君の間の空気はきっと薄ピンクのそれに
染まってしまって甘くべとつく。
 うん、と。
 頷いて、俺がもしも泣きそうだとしたらそれはあんたを好き過ぎるせいだよ、
という言葉を口にしないまま、ただもっと深くくちづけた。
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お粗末さまでした。
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