嵐が過ぎた後も、自分の切なさは消えなかった。私たちは行為の後もしばらく抱き合い「逝った後でも好きだと思えるか?」などと取り留めない会話を交わす。
その後は慌ただしかった。手助けをしてやろうと思うが、きゅんは手際良く身辺を整える。
身支度を終え時間を待つ間、きゅんはノッテステラータを無音で踊ってくれた。磨き抜かれた動きは地上でも美しく、ヴェニスに死すの主人公のようにこのまま死んでも良いような気持ちにさせられた。
それを言うときゅんは少しはにかんだ。

迎えが来た。
「普通のワゴン車が来たよ」ときゅんが無邪気に笑った。
「ありがとう、きゅん」と私は言った。
きゅんは「さようならじゃ無いです。行ってきます。必ずそうします」と言い、ドアを開けて立ち去った。

窓から見下ろすと白い地味なワゴン車が地味に走り去っていった。行ってしまったんだな、と思った。