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青い空・白い雲・ヴィタ・セクスアリス1・・・・2004年5月

肉体労働者風の逞しく日焼けした青年が、空の段ボールを軽トラックに積んで町から海岸沿いの自宅に戻る途中だ。さほど遠くない距離なので、すぐに海岸沿いの集落に着く。
青年は軽度の知恵遅れで、唖だった。唖だが歌は歌える。カーステレオにあわせて歌ってみる。歌詞はめちゃくちゃだが声は良い。感情をこめて歌う。

海岸沿いの小屋に軽トラックを駐め、手際良く段ボールを片付ける。最後のほうの一つを空けると、中におかっぱ髪の少年が入っていた。
子犬を取り出すようにひょいっと少年を取り上げてトラックの横に置く。この子は段ボールの中に入ってひとりで遊んでいたんだな、と青年は思う。
あーあー、と言いながら身振り手振りで帰りなさいと言うが、少年は抑えられない好奇心で瞳を輝かせ、「おじさんの家はどこなの?おじさんの家に一緒に行きたい」と言って付いてくる。
廃屋のような薄暗い、一部屋と台所だけの小さな小屋。大きめのテーブルに日用品が雑多に置いてある。
車で聞いた歌の続きが聞きたくて青年はCDをかけ、自分も一緒に歌う。心をこめて。
少年は小屋のすみずみを興味深そうに探索しては、これは何?これは何に使うもの?と聞いてきたり、ソファの上で跳ねたりして五月蠅い。青年はかまわず歌い続ける。
歌っているうちになんだか切なくなってきて少年をだっこしたくなった。捕獲するときにすばしっこく身を交わしたりしていたが、そのうちに自分から青年の膝に乗ってきた。ずいぶん色白の子だな。青年は少年をだっこしてみて、可愛いな、と思う。
可愛くて、とてもやわらかい。ネコみたいだな。と思う。