ウィキペディアの「マンチェスター出身のミュージシャン・バンドのリスト」を覗くと、そこには257の名が賑々しく並ぶ。
ニュー・オーダー、ハッピー・マンデーズ、ザ・ストーン・ローゼズ、バズコックス、シャーラタンズ、808ステイト、ザ・ヴァーヴ…(ほか、ディスコの王ビージーズやボーイズグループの王子テイク・ザットも)。
1980年代後半から90年代初頭にかけては、「マッドチェスター」という音楽ムーブメントも発生(狂ったという意味の〈マッド(Mad)〉とマン〈チェスター(chester)〉を掛けて)。
サイケロックとダンスビートを融合させた“マンチェスター・サウンド”を独自に生み出し、ドラッグ、クラブカルチャーと一緒にゆらゆら揺れた。

マンチェスター出身バンドの多くは、「労働者階級出身」であることを勲章のように誇らしげに掲げている(階級意識がまだ根強い英国なのでなおさら)。
その典型的な例が、オアシス。ワーキングクラス出のギャラガー兄弟が結成したブリットポップを代表するバンドで、結成前の兄ノエルは配管工や倉庫番、弟リアムは札付きのワル。
ライブでもジャージや普段着で登場するなど労働者階級を誇示し、アッパーミドルクラスのロンドン出身バンド・ブラーと対決するなど、実に階級社会・英国らしいスタンスと描かれ方でのし上がっていったのだ。

 どの階級出身でもガッツさえあれば成功できる街。ドラッグから強盗まで犯してきた悪事のデパートのようなショーン・ライダー率いる、ストリートのゴロツキ・ジャンキー・チンピラ集団ハッピーマンデーズといったバンドも成功した。
ジョイ・ディヴィジョンの暗く美しいボーカル、イアン・カーティスも日中は街の職業安定所の公務員として働いていた。