2017.2.14 05:04
今や日本一有名な記者といっていいフリージャーナリストの池上彰さんは、小学生の頃から「地方記者」に憧れていた。
NHKに入局後、望み通り松江放送局に配属され、3年後には広島県呉市の通信部に移る。瀬戸内海の島の運動会を撮影中の出来事である。

 ▼「借り物競走」に参加していたおばちゃんに、カメラを「借り物」として奪われる。追いかける池上さんは、いつのまにかおばちゃんといっしょにゴールしていた。
上司が近くにいないから、何を取材するのか、自分で決めていた。池上さんは振り返る。「とにかく楽しい日々だった。夢中になって走り回っていた」(『記者になりたい!』)。

 ▼NHK山形放送局記者、弦本(つるもと)康孝容疑者(28)が夢中になったのは、どうやら日々の取材ではなかったようだ。
昨年2月23日、山形県内に住む20代女性に性的暴行を加えた容疑で逮捕された。

 ▼それだけではない。前任地の山梨県で起きた強姦(ごうかん)事件でも、関与が疑われている。
自宅からは、女性用の下着と複数の鍵が押収された。記者として赴任した先々で犯行を重ねてきたとしたら、まさに前代未聞の事件である。

 ▼NHKのディレクター、鈴木伸元(のぶもと)さんは、「性犯罪」をテーマにした報道番組の制作にあたり何人もの加害者に取材してきた。「小ざっぱりとした恰好」
「ごく普通に働いている」「会話も極めて普通」。とても性犯罪を重ねているとは思えないような人物ばかりだった、という(『性犯罪者の頭の中』)。

 ▼犯行現場が広域にわたる事件とあって、警察の捜査は難航しそうだ。少年時代の池上さんにとってヒーローだった地方記者が、
なぜ卑劣な犯行に手を染めるようになったのか。解明するのはジャーナリズムの仕事でもある。

http://www.sankei.com/column/news/170214/clm1702140003-n2.html