ともあれ、訪れた3812年の世界は今日の我々の社会とは何から何まで異なる光景であったという。辺りには巨大なビルディングが立ち並び、高さは1キロにも達していた。すべての移動は大小さまざまな航空機で行われ、地上には車はいっさい走っていない。空は緑色なのだが、これはオゾン層を守るために人工的なガスが撒かれているからであるという。このような措置をとらなければならないほど、各地でロケットや宇宙船が頻繁に大気圏を出入りしているのである。

街には人間と同じくらいの数のロボットが辺りを歩いている。ロボットのボディは金属製だが、顔や手はシリコンのような素材でできており表情が自在に変化する。口を開いて人間と同じようにしゃべったり笑ったりもするということだ。これは人間と同じような“感情”を持っていることを意味するという。

見るもの聞くものすべてに興味が尽きない未来の街を歩いて見物していたマリーに男性が近づいてきた。黒いコートを着たその男性こそが教授の友人であるショーンであった。

ショーンに導かれて乗用車のような自家用航空機に乗せられ、宇宙船が発着する空港へ向かい、いよいよ火星旅行に旅立つことになる。

火星にはすでに中国人が運営する都市があり、多くの中国人が居住し働いているという。火星できわめて価値のある鉱物資源が発見され、その採掘が一大産業になっているのだが、どうやらその利権は中国人が握っているということのようだ。そしてこの採掘事業に関わる中国人以外は旅行者として火星を訪れることになっているのだ。

まさに葉巻型UFOのような大きな宇宙船に乗って火星へ向かったマリーたちだったが、興味深いのは4時間のフライト時間で実際には9カ月が過ぎ去っているという。光速を超えた移動で時空が歪んでいるということだろうか。

到着した火星の地は見渡す限りの砂漠で、すでに多くの建物が立ち並んでいた。マリーは教授のリクエストに従い何枚かの写真を撮った。そしてその中の1枚を今回カメラに向かって初公開したのだ。

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画像は「ApexTV」より

驚いたことに火星には爬虫類タイプの生物が生息していて、酸素なしで生きていける特性を持っているという。簡易的な宇宙服を着せられて火星“観光”をしたマリーたちは鉱物の採掘現場も見学した。遠目では人間の作業員と思われた人影は、よく見るとすべてロボットであったという。

2時間ほどの火星観光を終えて地球に戻ってきた2人だったが、ショーンは旅の思い出にと動物園に連れて行ってくれた。なんとそこの動物たちはすべて地球外から持ち込まれた生物で、どれもがこれまで全く見たことのない動物たちであったということだ。

ショーンはほかにもこの時代のことをいくつかマリーに解説してくれたという。この時代の人々は腕時計型の機器を装着していて、それを使いテレパシーのように言語を介さず直接脳でコミュニケーションをとっているという。画像や映像はディスプレイやスクリーンに表示する必要はなく、脳でダイレクトに認識するということだ。

ほかにもまだまだこの時代について知りたかったマリーだったが、不意に電流の刺激を感じて意識を失い、目が覚めると教授の実験室であった。

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画像は「ApexTV」より

教授に火星の写真を渡し今回の興奮の体験を語ったマリーだったが、その後に教授からアシスタント契約の打ち切りを言い渡されて、マリーは教授のもとを離れることになった。

この体験から10年以上も過ぎた今になって、マリーがどうしてタイムトラベル体験を公表することにしたのか、その正確な真意のほどはわからないが、話しぶりからは昨今相次いで登場する“自称タイムトラベラー”を次々紹介している「Apex TV」の存在が影響しているように思われる。彼女の“体験告白”がこれで終わりなのかどうか、またほかにも火星の写真を持っているのかどうか、詳しいことは全く明かされておらず、今後の関連情報をこまめにチェックするほかないようだ。

終わり