N国とは「NHKのスクランブル放送化の実現」を最大の公約に掲げる政党である。かつての所属議員や支持者の中には「NHKの放送内容を糾す団体」と勘違いしていた者も見受けられるが、それは大きな間違いだ。N国はNHKの放送内容には全く関知しない。N国が問題にしているのは、NHKの受信料制度や受信契約をめぐっておきる、NHKやNHK集金人とのトラブルだけである。「NHKをぶっ壊す!」はたしかにキャッチーなフレーズで子どもにも大人気だが、N国の実態を正確に表してはいない。N国の活動がNHKの改革に寄与する可能性はあるが、「すぐにNHKがぶっ壊れる」と信じている人は、考えを改めたほうがいいだろう。
そんなN国の躍進を支えてきたのは、世間に根強くある「NHKへの反感」だ。これはN国が訴える受信料制度への不満だけではなく、ぼんやりとした反感も含む。N国はその存在を知っているからこそ、政見放送でしきりにNHKに対する憎悪の念を煽ってきた。
その結果、7月の参院選でN国が候補者を立てた37選挙区のうち、福井県、岐阜県、群馬県では得票率が7%を超えた(7.68%、7.47%、7.43%)。もっとも低い大阪府は1.24%だったが、それ以外ではすべて2%を超え、選挙区での得票率は3.02%になった。つまり、全国の「反NHK票」を掘り起こし、受け皿となっているのだ。しかし、N国に投票した人たちが、本当にN国の主張や実態を知った上で投票したのかどうかは知る由もない。
N国の立花孝志党首は、これまでに何度も「NHK問題以外はやらない」と公言してきている。最近になって「インターネットを使った直接民主制の導入」も謳い始めたが、まだ実際の運用レベルには至っていない。NHKの集金人が来なくなると主張する「NHK撃退シール」を配布する活動や、集金人の対応に困った人からの相談を受ける電話相談は結党当初から続いており、参院選後には党独自のコールセンターも開設された。しかし、それ以外の政治的実力はまったくの未知数である。
有権者が解決を求める政治課題は、NHKの受信料問題だけではない。そのため、今後もN国が巨大な勢力になることは考えにくい。しかし、世の中に一定数存在する「反NHK票」の受け皿が新たに現れない限り、N国が議席を取り続ける可能性はなくならない。
とくにN国が力を注いでいるのは、大選挙区制で行なわれる選挙である。これは1つの選挙区で複数の当選者を選ぶもので、市区町村レベルの地方議会議員を決める選挙である。もう一つ力を入れているのが、国政選挙における比例代表制だ。
これらの選挙結果を分析すると、あることに気づく。有効投票数の約2.5%を取れば、「1議席」の当選ラインに届くのだ。
立花党首はこれまでに何度も、「40人のうちの39人に嫌われても、1人が入れてくれれば当選できる(得票率2.5%)」と言ってきた。その言葉の通り、議会で多数派を占めることはできなくても、確実に1議席は取れるラインがある。N国はここに目をつけて各地の選挙に候補者を立て、1議席を取りに行っている。議席を獲得すれば、税金から歳費が支払われる仕組みが手に入るからだ。
議会制民主主義の中で、1議席でできることは限られる。しかし、NHKの受信料制度に文句を言う勢力は、いつまで経っても消えない。地方議員の発言力は、ただのボランティアとは違ってNHKに対するプレッシャーにもなる。しかも、国政選挙や知事選挙の際には、「政見放送」というプロモーションビデオの撮影を行う義務がNHKには課されている。こうしたN国の選挙戦略は、NHKにとって「悪夢のビジネスモデル」と言えるだろう。
終わり