その老老介護殺人事件は、息子家族が同居しているはずの二世帯住宅で起きた。

2階には息子家族が暮らし、1階には70代の両親が介護生活送っていた。その1階の部屋で、77歳になる元看護師の妻が、5歳年下の夫の介護に疲れ、包丁で30ヵ所以上もめった刺しにして殺害したのである。

後の裁判で、同居していた長男は震える声で言った。

「私が母のことをもっと見ていれば、こんな事件は起きなかったと思います。同じ家に暮らしながら、深刻なものだとは感じていなかった。私自身、反省すべきところがあまりに多いと思っています」

介護が原因で起こる殺人事件は、年間に20〜30件にも及ぶ。

なぜ元看護師の女性は、息子家族と同居しながら、殺人事件を起こすまでに追いつめられたのか。私は、日本で起きている介護殺人をはじめとする親族間の殺人事件を『近親殺人――そばにいたから』(新潮社)というルポルタージュにまとめた。その中から、老々介護殺人事件の事例を紹介したい。

事件が起きたのは、千葉県の住宅街にある2階建ての庭付きの一軒家だった。

この家の主は、事件の当事者となる内城日出美(仮名、以下同)と夫の勉。同じ病院で、日出美が看護師、勉が医療事務職として働いてきた関係で知り合った。日出美は20代で別の男性と結婚して息子を出産していたが、32歳の時に勉と再婚。以来、公私ともに支え合ってきた。

二人を知る医療関係者は語る。

「日出美さんは看護師さんらしく社交性があって、何でも自分で決めて動けるタイプです。勉さんの方がどちらかといえば性格的には慎重でした。日出美さんは、年上だったし、連れ子を抱えていたこともあって、勉さんのことを大切にしていました。責任感のつよい年上女房という印象です」

日出美と勉は60歳を過ぎて病院を退職。幸せな老後を過ごすはずだった。

しかし、2009年、勉が脳出血で倒れた。一命を取り留めたが、左半身に麻痺が残り、一人では立って歩くことさえできなくなった。要介護3で、移動はもとより、入浴の際も介護が必要だった。

日出美は、夫に良くなってもらおうと、24時間にわたって献身的に介護をした。その間、彼女は周りに「つらい」とか「嫌だ」と口にしたことはなかった。むしろ、それが当たり前という姿勢で、夫の介護に励んだ。元看護師という責任感もあったのだろう。

そんな彼女にとって数少ない相談相手が、ケアマネージャーの友田秋子だった。友田は次のように語る。

「デイサービスの利用は週2、3回で、それ以外は夜もずっと日出美さんが介護をしていました。トイレへ行く時も一緒でした。

日出美さんは自分でいろいろと調べて、自宅でできるリハビリ方法など良いと思ったことを実践していました。自分の手で勉さんを良くするんだという思いが強かった。勉さんも日出美さんを信じて、希望を持ってリハビリをしていました」

日出美の献身的な介護のおかげで、脳出血で倒れてから4年、勉は杖をつかえば近所へ買い物に行けるくらいまでに回復した。要介護度も一段下げられて2になった。それを聞いた時、二人は手を取り合って喜んだそうだ。

2013年6月、こんな二人に再び試練が訪れる。勉がリハビリを行っている最中に激しく転倒し、左大腿骨を骨折したのだ。今度は、寝たきりの生活を余儀なくされた。ベッドで寝ている間に、4年のリハビリで鍛えた筋肉はみるみるうちに落ちて、見る影もなく細くなった。要介護度は2つ上がって4になった。介護なしでは生活が営めないレベルだ。

日出美は、もう一度がんばろう、と自らを奮い立たせる。だが、その矢先、勉がまたも脳出血を起こして倒れ、高次脳障害になった。高次脳機能障害とは、脳に損傷を負うことで記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害が起こるものだ。

勉は情緒が不安定になって、些細なことで怒り狂って喚き散らした。一日のスケジュールを細かく決めて、「何時にご飯を出せ」「何時に歯を磨け」と日出美に求め、それがわずかでもズレると激高する。埃が落ちていたり、食器が汚れていたりするだけで、手に負えないほど暴れた。

続く

以下ソース
https://friday.kodansha.co.jp/article/194807

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