「コロナ禍で女性の相談が増加したことは実感しています。そしてコロナ前よりも、この人は“自殺”を考えていると感じさせる相談が増えているのです」

そう話すのは、悩みを持った人たちの相談を電話で受けている「北海道いのちの電話」の事務局長・杉本明さん。

新型コロナウイルス感染が拡大した昨年、芸能人の自殺が大きな波紋を呼んだ。政府が11月2日に閣議決定した、令和3年版自殺対策白書は、そんな’20年の自殺状況を分析したものだが――。

「女性の自殺者数が増加しているのです。男性の自殺者数はわずかに前年より減っていますが、女性は935人も増え、7千26人に上りました。職業別では、〈被雇用者・勤め人〉の女性の自殺者が大きく増加。厚生労働省は、コロナ禍の労働環境の変化が、増加の要因の一つとみています」(全国紙記者)

本誌は、悩みを持った人からの電話相談やSNS相談を受けている現場の担当者の方々に取材。彼らが聞いてきた女性たち一人ひとりのこころの悲鳴と――。

前出の杉本さんによると、「北海道いのちの電話」が受けている電話の範囲では、家庭問題を理由にした相談が多くなったという。

「“コロナ禍で失業した”“体が弱いのにコロナで収入が減って不安”“自営業だが、コロナのせいで仕事が減って大変な状況”といった相談もありましたが、職場の人間関係で悩んでいるといった、勤務問題はコロナ以前より少なくなった印象です。テレワークが増えたからではないかと考えます。

ただコロナ禍で家族と密になったことで、かえって問題が起こるケースが多かったようです。“夫が出ていってしまった”“娘に家から出ていってほしい”といった家族仲の険悪さを感じさせる相談内容、さらには“娘から暴力を振るわれ、お金を要求される”“夫から暴力を受けている”などDVの相談も多くありました」

また、「熊本いのちの電話」事務局長の赤星敦さんも、コロナ禍で女性の相談は増えたと話す。

「私たちが受けている電話相談は、若年層は少なく、40代、50代が大半を占めています。感じるのは、コロナ禍で職を失った方の相談が増えたこと。また特に女性で自殺傾向のある相談が増えていて、その件数は’19年までは男性のほうが多かったのですが、’20年は女性が男性を上回るほどでした」

近年ではSNSでのやりとりで相談を受ける団体もある。SNS相談に取り組む「東京メンタルヘルス・スクエア」の新行内勝善カウンセリングセンター長に話を聞くと、

「ツイッターなどSNSで“死にたい”と投稿している人に対して、相談窓口の情報を送ることもあります。相談の内容によっては、警察に電話し、相手の場所がつかめたら保護してもらうことも。

私たちに届く相談の8割が女性で、20代が多く、次いで10代、30代。働く女性ですと、職場や家庭内の人間関係での悩みが主です。これまでは周囲と話すことでストレス解消していたのが、コロナ禍で人と会うことができずストレスがたまっている印象があります」

また、中央大学人文科学研究所客員研究員で自殺予防教育などを専門としている高橋聡美さんは子育て世代の苦しみを指摘する。

「私がもともと遺児支援をしており、行政から相談があるのですが、今年の9月には、ママ世代が自殺したという相談が相次ぎました。子育てをしている場合、子育てサークルがコロナ禍でやっておらず一人で悩んでいる方がいたり。

また夫婦ともにテレワークの場合、家のなかでずっと一緒だとイライラが募り、妻が子供と一緒に外出させられて不満を持ったという話も聞きました。外に出ても喫茶店も開いておらず行くところがない。子供がいる女性たちが“助けて”と言える場所が少なかったことが問題のように感じます」

自殺や生きづらさをテーマに取材執筆活動をするジャーナリストの渋井哲也さんは、「もともと女性の自殺は、経済的要因よりも対人関係の影響によるもののほうが多い」と語る。

ただ、コロナ禍で女性の自殺が増えた原因は次のように分析する。

「やはり、経済的要因はあると思います。コロナの影響で、宿泊業、飲食業、娯楽業など女性が多く従事する産業で業績が下がり、失業、休業などが多くありましたから」

続く

以下ソース
https://jisin.jp/domestic/2035684/