コロナ感染のリスクを減らすために接種してきたワクチンについて、その効果を疑問視する論文が発表され不安が生じている。追加接種に対して二の足を踏む人もいるが、一方でワクチンを接種しないことによる重症化リスクもある。何を信じればいいのか──。本誌・週刊ポストは専門家の協力のもと、コロナワクチンに対する様々な疑問に向き合い、徹底検証した。

 都内在住の70歳男性・Aさんはこれまで4回のワクチン接種を重ねてきた。だが、昨年10月に始まった5回目接種には二の足を踏んでいる。

「これまでワクチンの副反応もなくコロナにも感染していません。でも、最近になって、妻が『ワクチンを打っても意味がない』『体に毒らしいよ』と言い始め、急に不安になった。どうやらネットでそういう情報が出回っているらしい。5回目を打つかどうか、ずっと迷っています」(Aさん)

 Aさんのようにワクチンに対して不信感を抱く人が増えている。有効性や効果に疑問を呈する報道が急増しているからだ。直近で多くの人に強いインパクトを与えたのが、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」が元日に報じた〈ワクチンがコロナの新種を増殖させている?〉と題した記事だ。

 そこでは日本でも感染が確認されているオミクロン株亜種「XBB.1.5株(以下、XBB株)」について「ワクチンを打つほど感染しやすくなる」との可能性に言及している。

 同記事内では、クリーブランド・クリニック(米・オハイオ州)の医師らが医療従事者を追跡調査した研究論文の〈ワクチン接種を3回以上受けた人は未接種の人の3.4倍、2回接種した人は未接種の人の2.6倍、コロナへの感染率が高くなった〉とのデータを紹介。また〈ワクチンの複数回接種とコロナのリスクの関連性を示した研究はほかにもある〉としている。

 このWSJの記事は、日本国内の複数のメディアでも取り上げられたが、その背景には収束が見通せない感染拡大の影響もありそうだ。

 政府はワクチンが対策の切り札であるとし、2021年2月から国内のワクチン接種を推し進めてきた。高齢者を中心に多くの国民が接種を重ね、現在65歳以上の1〜3回目接種率は90%を超え、5回目も60%を超える。

 英オックスフォード大が公開する「Our World in Data」の集計では、人口100人あたりのワクチン接種回数は、日本が304.74回で世界トップだ(1月25日現在)。

 ところが、WHOがまとめた新型コロナ感染症の集計で、日本は週間感染者数が2022年11月から10週連続で世界1位を記録した。今年1月24日までの1週間の統計では約57万人で、G20のなかでもダントツの数字だ。

 なぜ、ワクチンの接種回数が世界トップなのに、感染者数が世界最多なのか──。こうした疑問がワクチンへの信頼を揺るがせているとみられるが、本当にワクチンを打つほどコロナにかかりやすくなるのか。専門家にこの論文について問うと、「鵜呑みにするのは早計だ」という意見が数多く返ってきた。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が語る。

「そもそもこのWSJの記事は『Nature』や『Cell』といった科学雑誌に掲載された4つの論文のそれぞれ一部分を取り上げたもので、元の論文ではワクチンの有効性について、統計をもとに肯定的に触れています。

 また最もインパクトのあったクリーブランド・クリニックの医師らの〈3回以上接種した人は未接種者より3.4倍感染率が高くなった〉という論文は査読前のもので、正式な医学研究として評価されておらず、現時点では臨床診療の指針にはなりません」

 クリーブランド・クリニックの研究論文についてはほかにも疑問点がある。昭和大学医学部客員教授(感染症学)の二木芳人医師が指摘する。

「この研究はあくまで医療従事者を対象としたものです。ワクチンの接種回数が多い医療従事者ほど重症化リスクが少ないと考えられる。そのためコロナ診療の最前線で業務に当たったり、感染対策に思わぬ緩みが生じたりして、感染リスクが高くなった可能性がある。ワクチンの効果を知るには接種回数だけでなく、それ以外の要素まで考慮する必要があります。データの報じられ方は、やや問題があると思います。

続く

以下ソース
https://www.news-postseven.com/archives/20230130_1836215.html