米国では近年、23の州とワシントンD.C.で娯楽用大麻が合法化されており、フロリダを含むいくつかの州では2024年11月に合法化を巡る投票が予定されている。こうした変化によって消費量は劇的に増加し、2022年の薬物使用と健康に関する全米調査によれば、過去1年間に大麻を使用した米国人は約6200万人に上った。しかし、合法化されたからといって、大麻の日常的な使用にまったく危険がないわけではない(編注:日本の外務省は「大麻(マリファナ)が合法の国であっても、日本で罪に問われることがあります」と HP で注意を喚起している)。

 大麻による健康上の問題は、単なる口の乾きや疲労感にとどまらない。数々の証拠により、精神や体の疾患を含む多くの問題が明らかになりつつある。例えば、2024年2月に医学誌に発表された研究では、大麻の使用が心臓病や脳卒中と関連していることが示された。

「多くの人が、大麻は大自然の恵みであり、何の害ももたらさないと考えています」と、カナダ、オタワ大学の精神科医マーコ・ソルミ氏は言う。しかし、ソルミ氏らが2023年8月に医学誌に発表したレビュー論文からは、大麻の使用には数多くの問題を引き起こす可能性があることがわかる。

 大麻の危険性は、オピオイド(麻薬や鎮痛剤として働く薬物)のそれとは異なると、大麻の使用と乱用について研究している米コロンビア大学の疫学者デボラ・ハシン氏は言う。「大麻の過剰摂取で死亡する人はいません。しかし、大麻は身体的および精神的な健康に多くの影響を及ぼす可能性があるのです」

 問題の一因は、過去に比べてより効き目が強くなった品種や製品にある。米シカゴのルリー小児病院で薬物使用・予防プログラムの医療責任者を務めるマリア・ラーマンダー氏は、今の大麻製品は「祖母の世代が使っていたものとは異なる」と述べている。

「現在の大麻製品は以前よりもはるかに強力で、とても多様な配合で提供されます。1960年代や70年代に出回っていたものはもちろん、90年代の製品とさえ大きく異なります」と氏は言う。

 現在普及している大麻の使い方では、有効成分のテトラヒドロカンナビノール(THC)が従来の使用法よりも多く体に取り込まれる。大麻の成分を含む液体を電子たばこなどの機器で加熱し、蒸気を吸う「ベイピング」や、「エディブル」と呼ばれる食用大麻は、大麻を紙で巻いて喫煙する「ジョイント」よりも一般的に摂取量が多くなると、ラーマンダー氏は言う。

 あまり知られてはいないが、大麻の常用によって生じる厄介なリスクのひとつに「物質誘発性精神症」があり、妄想を抱いたり、声などの幻聴を聞いたり、一時的に現実感を失ったりといった症状が起こる。一般的に数日で治るものの、場合によっては入院が必要になる。

 こうした症状は、心理的な変化をもたらす物質なら何ででも起こり得るが、「大麻によるリスクはコカイン以上」とソルミ氏は言う。

「大麻を毎日使用していると、物質誘発性精神症を発症する可能性が高くなりますが、このくらいであれば発症しないという安全な量がわかっているわけではありません」。若年成人と男性が、最も発症しやすい傾向にある。

とりわけ懸念されるのは、物質誘発性精神症の患者のうち約3人に1人が、その後、より長く続く病気である統合失調症を発症することだと、ソルミ氏は言う。

 また、その他の精神疾患と、大麻の頻繁な使用との関連も観察研究で示されている。ソルミ氏らのレビュー論文によれば、うつ病のほか、交際中のカップル間での暴力が増加することがわかっている。さらに、大麻は認知や視覚の障害を引き起こすため、その影響下にあるドライバーによる交通事故も増えている。

 専門家は特に、10代の若者の精神衛生への影響を懸念している。21歳未満の使用を合法化している州はないにもかかわらず、2023年に行われた全米の中等学校の生徒を対象とした調査では、10年生(日本の高校1年生に相当)の17.8%が、過去1年間に大麻を使った経験があると認めている。

 青少年の場合、日常的に大麻を使用すると、若年成年期までにうつ病を発症する確率が非使用者よりも37%も高くなり、自殺率も上昇するという研究もある。

「10代の脳は、成熟と刈り込み(剪定)の時期を迎えており、そこに薬物が入り込むと、大人の脳よりも大きな影響が生じます」とラーマンダー氏は言う。

続く

以下ソース
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/24/032600175/