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遺伝が心理的特徴に影響を与える割合。パーソナリティ、能力、社会行動などへの影響度

 親の才能を引き継ぎ、芸能界で活躍する二世タレントがいる一方、大谷翔平や藤井聡太八冠のように彗星のごとく現れ、前人未到の功績を残すプレーヤーもいる。果たして彼らは両親の能力が遺伝したのか、育った環境がそうさせたのか──。“遺伝の影響”に関する研究について紹介する。【遺伝の研究・全3回の第3回。第1回から読む】

 年齢を重ねるほどに、遺伝の影は色濃くなっていくことも研究によって明らかになっている。慶應応義塾大学の中室牧子教授らの研究では、「収入」に及ぼす遺伝の影響は20才で22.7%、30才で38.2%、40才で56.5%と上昇を続け、43才で58.7%のピークを迎えて、50才では52.3%となることが明らかになっている。遺伝の影響を調べる「双生児研究」の第一人者である慶應義塾大学名誉教授の安藤寿康さんが語る。

「若い頃は親の人脈やどこに住んでいるかなど家庭環境の影響が大きいですが、成長するにつれて遺伝的素質に合わせた仕事を選択するようになります。そのため、年齢を重ねるほどに遺伝の影響が大きくなると考えられます」

「犯罪」と遺伝の相関関係も年齢と比例すると、安藤さんは続ける。

「15才を超えると強盗や詐欺などの反社会的行動において、環境よりも遺伝の影響が大きくなります。分別がつく年齢になっても衝動に身を任せて窃盗したり、人をだまして悪事を働くなど、繰り返し犯罪に手を染める根底には、その人の遺伝的素質がかかわっています。

 ただし、そうした遺伝的素質があると必ず罪を犯すわけでなく、環境も大きく影響することも明らかになっています」

『言ってはいけない 残酷すぎる真実』をはじめとした遺伝関連の著作が多い作家の橘玲さんはこう指摘する。

「“極端なものほど遺伝率が高い”のが行動遺伝学の知見ですから、他人の感情をまったく理解しないサイコパスや、人を殺して解剖することに興味を持つ子供は、親の育て方が悪かったのではなく、遺伝的な偶然で不幸な結果を招いたとしか言いようがありません」

 さらに注目されるのが、「離婚」と遺伝のかかわりだ。

「離婚にはさまざまな理由がありますが、一般的に多いのは性格の不一致です。パーソナリティーを構成するビッグファイブのうち、外向性が高いと強い刺激を追い求める傾向があって性愛の誘惑に弱く、夫婦がともに外向的だと長期的に婚姻関係を維持するのは難しくなるかもしれません。

 また、神経症傾向が高ければ“浮気してるんじゃないか”“ウソをついているのでは”などネガティブなことを考えやすく、会話がギスギスする。こうしたパーソナリティーも半分は遺伝の影響がありますから、離婚も遺伝と無関係でないのは明らかです」(橘さん)

 人生を大きく左右する「才能」も遺伝の影響から逃れられない。勉強にかかわる「知能」もそのひとつ。安藤さんが言う。

「知能における遺伝率は、子供のときは20〜40%で、青年期になった頃にだいたいピークを迎え、50〜60%ほど。その後はほぼ変わりません。そのため、“親の受験”ともいわれる『中学受験』くらいまでは親のがんばりによって子供の成績が左右されますが、それ以降、子は成長するにつれて徐々に遺伝的素質が出て自分の好きな環境を選択するようになる。つまり、成長するほどに遺伝の影響が顕在化するのです」

 学年ビリのギャルが一念発起し、1年で偏差値を40上げて慶應義塾大学に現役合格した「ビリギャル」。多くの人に勇気を与えたサクセスストーリーだが、橘さんは懐疑的だ。

「彼女はそもそも偏差値の高い学校にいました。生得的に知能の高い女の子がたまたまギャルをやっていただけで、誰もがビリギャルのような一発逆転ができるわけではないでしょう。

 ちなみにアメリカには、教育格差をなくすため教育に予算を投入したら、逆に教育格差が開いたという研究があります。予算を増やして新しい教育教材などを提供しても、それを有効に活用して学力を上げたのはもともと優秀な子で、平均より下にいる子は与えられた機会をうまく使えなかった。

 さらにいえば、ビリギャルのように『努力』できるかどうかもパーソナリティーがかかわっていて、遺伝の影響を免れません。がんばろうと思っても生得的にがんばることが苦手な子供が一定数いるという“不都合な真実”から、誰もが目を背けています」

続く

以下ソース
https://www.moneypost.jp/1132416