筆者は戸惑うばかりだったが、女性から「気になった女性がいたら、あちらで確かめられてもOKですよ」と言われ、いくつかある扉を指差された。
つまり、そこでコトに及ぶことができるようだ。

と言われても“相場”も分からず、どこかで恐さも感じていたので、ひとまず適当にその場をごまかして、女のコと話しながらA氏が戻ってくるのを待つことにした。
ちなみに、こういった場所には政治家や著名人がお忍びで訪れるイメージもあるが、筆者が訪れた時はそういうことは一切なかった。
ただ、深夜の時間帯は“無きにしも非ず”らしく、昼間は会社経営者の利用が多いそうだ。

結局、A氏が戻ってくるまでの約1時間、トップレス女性の給仕でひたすら飲んだ。
しかし、緊張感のせいかまったく酔えなかった。

帰り際、A氏になぜ別部屋に行かなかったのかを問われ、相場が分からなかったこと伝えると、

「あ〜、ごめん。説明してなかったね。俺が会員で月に決まった額を払っているから、キミもタダでできたんだけどね」

と教えられた。

もったいなことをしたと思ったが、時すでに遅し。
その後、A氏が部署移動になってしまい接点がなくなったことで、その隠し階の店を訪れることはなくなった。

もちろんその雑居ビルは今でもあるが、なにせ10年前の話だ。あの秘密クラブ的なものは、もう存在しない可能性もある。
ただ、今もそのビルには屈強な黒人男性が出入りしていたりする…。

終わり