妄想・幻聴などの症状を呈す統合失調症は、普通、治療すべき「脳の異常」だと見られている。医療系のドキュメンタリー番組で、奇声を発しながら暴れる統合失調症患者がベッドに拘束され、鎮静剤を投与されるシーンなどを観ると、ますますその確信は強まるだろう。
だが、言語や発話能力の獲得は、同時に自閉症と統合失調症を生み出したといわれるように、統合失調症の発症リスクは人類がこれほどまでに進化するための必要悪だった可能性がある。実際のところ、無秩序で乱雑な喋りは統合失調症の目立った兆候の1つであるし、複雑な言語体系を持つ人間だけが統合失調症を発症する。
2008年にオープンアクセスのジャーナル「Genome Biology」に公開された研究によると、人類は進化において、脳の認知能力の限界点に到達し、この限界を克服するため、脳は代謝速度を速め、驚くべき速度で進化したかもしれないという。脳で起こった急激な分子構造の変化が、副次的に統合失調症を生み出したというのだ。
また、2015年の別の研究では、HARsと呼ばれる急激に進化したとみられるゲノム領域における特定の遺伝子が、統合失調症に関連することが判明している。これらの遺伝子は人類の脳にとって重要な役割を担っているとともに、多大なリスクを抱えこんでもいる。
今回、科学誌「npj Journal」(2月20日)に公開されたオーストラリア・フロリー神経科学・メンタルヘルス研究所のエリザベス・スカー博士らの研究は、こういった先行研究で示唆されていた「統合失調症・進化副作用説」を裏付けるものだ。
博士らは、統合失調症を患っていた15人の患者の脳とそうでない15人の脳を解剖し、大脳前頭極と呼ばれる認知能力や計画や推論に関係する脳の領域と、その周囲にある帯状皮質や背外側前頭前皮質といった統合失調症に関係する部分を調査した。その結果、統合失調症を患っていた患者には566の遺伝的変異があることが判明したという。論文共著者のブライアン・ディーン教授は、全てが解明されたわけではないものの、「前頭葉に大規模な遺伝的変異がみられるため、今回の研究は、統合失調症・進化副作用説を支持するものだ」と語っている。
ということは、統合失調症患者は「進化形人類」だと言うこともできるかもしれない。今のところ統合失調症は副作用だと解釈されているが、自然選択の結果残ったものだとすれば、実は人類の生存にとって不可欠の要素なのかもしれない。果たして統合失調症は克服されるべきものなのか、受け入れられるべきものなのか…今後の研究に期待したい。
以下ソース
http://tocana.jp/2018/03/post_16230_entry.html
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