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取材班は、現地で謎の光を確かめるべく福島第一原発を見渡せる滝川ダム近くでカメラを構えた。すると、画面左から右に動く光を複数確認できた(赤枠部分)

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この高台から第一原発までの距離は約11km。超望遠レンズで見ても光がなんなのかわからない。そこで第一原発に近づけるところまで近づいて確認することにした。

原子炉まで直線距離で約2.5kmの場所にある双葉町の国道6号線沿いで待ち受けていると、高台で待機しているカメラマンから「今飛んでいる」との連絡が入る。

だが、排気筒を見上げても光らしきものは何も見えない。ひょっとして、カメラマンのいる高台から見えるのは原子炉の裏手にある海上の船の明かりではないか? そんな疑問が浮かんだため、第一原発から最も近い漁港の請戸(うけど)漁港(福島県浪江町)に向かう。

そこから海面を見渡すと遠くに船らしき赤い光はいくつか見えるが、動く光は何もない。不思議だ。カメラマンがいるのは高台のため、漁港にいる取材班より見通せる海面距離は計算上40kmほど奥に広い。ということは、かなり沖合を航行している船の明かりなのかもしれない。

結局この日は、深夜3時過ぎまで光を断続的に確認することはできたが、その正体はますますわからなくなった。

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福島第一原発から約2.5kmの場所にある双葉町の国道6号線沿いで空を見上げたが、謎の光らしきものを確認することはできなかった

東京へ戻り、まず第一原発の廃炉作業を進める東京電力に謎の発光体について聞いた。「6月26日は深夜1時頃まで野外でタンクの除去工事をしていましたが、上空を飛ぶ発光体は認識していません」(広報室)

次に、第一原発沖に巡視船を常駐させている海上保安庁の福島海上保安部に尋ねると、こちらも「6月26日とその前後で、福島第一原発上空での発光体は確認していません」との回答だった。

なんと、第一原発を最も近くで監視しているはずの東電も海保も、映像の光を一切確認していないという。

では、この時間帯に民間機は飛んでいたのだろうか。国土交通省の東京航空局仙台空港事務所はこう答えた。

「フライトプランを調べましたが、この時間帯に福島第一原発の低い上空を飛んでいる飛行機は該当がありません。夜間帯に高高度を飛ぶ国際線もありますが、位置的に福島上空はあまり飛ばない。有視界ぐらいの低さなら、なおさら第一原発の上は飛ばないでしょう」

ヘリコプターやドローンの可能性はどうか。福島でヘリコプターの運航を行なうジャパンフライトサービスは、「民間のヘリコプターはこの時間帯に飛びません。ドローンは以前、検査のために福島第一原発上空を飛ぶと通知が来たことがあるが、夜間はやらないでしょう」と話す。

小型機やヘリコプターを運航するアルファーアビエィションにも聞いてみたが、「映像を見る限り、あの角度でヘリが飛ぶのは難しいし、ヘリなら青いライトが光るはず」とこちらも否定する。

防災ヘリやドクターヘリの可能性がないのか福島県庁にも聞いたが、やはり夜間には飛ばないという。

となると、自衛隊や在日米軍の線はどうか。だが、陸上、海上、航空の幕僚監部に尋ねても、「その日のその時間帯は、福島上空で訓練はしていない」といずれも否定した。在日米軍司令部も、「本件には米軍は無関係」という回答だった。

船の可能性も捨てきれない。望遠レンズでは離れた被写体の距離感が少なくなり、海上の船があたかも上空を飛んでいるように見えるかもしれないからだ。特に漁船の明かりは強く、「サンマ漁船になると10kWの強力な明かりをつける」(三信船舶電具)という。

しかし、福島県のいわき市漁業協同組合は「この時間帯の操業は確認できないし、漁船だとしてもこれだけ多くの光が並ぶことはありません」と話す。同県の相馬双葉漁業協同組合も、「第一原発の20km圏内では漁はしないので漁船の可能性は薄い」とのことだった。

なんらかの天文現象も疑ったが、「火球や流星とも違う。天文現象ではありません」(国立天文台天文情報センター)

続く