0002逢いみての… ★
2020/04/04(土) 23:58:51.28ID:CAP_USER哺乳類は、メスはすべて育児をするが、クマのように群れをつくらない種の中には、オスは交尾後どこかへ消えてしまうものが多い。メスは生まれてきた子どもをひとりで育てる。哺乳類の種の約半数は、このタイプだ。
家族を中心とした群れを作る種でも、もっぱら母親が子育てをする。オスは、少し大きくなった子どもと遊んだりはするが、母乳を飲んでいる間は基本的に関わらない。菊水氏によると、群れで生活する動物のオスが子育てをしないのは「子どもが自分の子どもである確証がないから」だそうだ。
例外はある。マウスは、オスも小さいうちから子どもを温めたりして、かいがいしく小さい子マウスの世話をするが、そこにはからくりがあった。
「マウスは妊娠中のつがいを同じケージに入れておくと、メスのフェロモンでオスのテストステロンが下がってしまうんですよ」
つがいを形成する動物では、父親が養育に携わることが多い。これは自分とずっと一緒にいるメスの子なら、わが子であることはある程度担保されるから。
でも、同じげっ歯類でも、ラットのオスはテストステロンが下がらず、子どもが生まれてきても何もしない。
「私たちも育児行動の実験を重ねていますが、育児をしない種のオスに育児をさせるのは、もう大変なんです。でも、マウスのオスも、テストステロンを作る器官である睾丸を切除したら、途端に育児を始めました」
マウスの世界でも、父親の育児はかくも厳しい。
では、ヒトの育児はどんな原型をもっているのか。
哺乳類のもうひとつのタイプは「共同養育」で、近年、生物学の世界ではこのスタイルが注目されている。ヒトは、このグループの代表だ。
「ヒトは、母親1人で子どもを育てる種ではありません。母親が中心ですが、祖母、姉妹と共に、集落の女性たちが協力して育てます。男性は、子どもがある程度大きくなってから子どもと遊ぶようになります」
まさに、戦前の日本だ。
「これはヒトや一部の動物にしか見られません。ラット、イヌ科の動物、あとはミーアキャットやプレーリードックなども、とても上手に共同養育をします。お祖母さん、お姉ちゃんに当たる3〜4頭が母親と一緒に育児をすることが多いですが、血縁関係がないこともあります」
ヒトは共同養育の傾向が顕著で、子育てに関わる女性の人数がとても多く「集落に住む女性全体が育児に参加する種」とさえ言われている。
「私は、今、その形が崩れているのが、育児が大変になっている最大の原因だと思います。経済効率をよくするために若年人口を都市部に集中させ、転勤族を作った企業がそれを壊してしまいました。昔の長屋暮らしにあった深い懐から若者を引っ張り出し、ヒトという種が本来持つ、子どもを育むネットワークを分断してしまったのです。
今、地域コミュニティーを活性化しなくてはといろいろなプロジェクトが動き出しましたけれど、まだ、子どもを簡単に預けられるご家庭はほとんどないですよね。お母さんは、自分が体調を崩しても耐えてひとりで子どもをみるしかない。その矛先が、父親に向かっているのです」
菊水氏は、夫に不満な母親たちの姿をそう読み解き、育児そのものの危機を感じていた。
「では、大家族に戻ればいいのかというと、それも、生物学的に見て心配があります。生物には、自分が育てられたように子どもを育てるという『世代間連鎖』という現象があるからです。子育てには大家族がいいのですが、核家族で育った子どもは大家族の中で生きていく術を学んでいません。最近は、夫婦2人の暮らしも煩わしいという人が増えています。こうして、ヒトは、どんどん孤立の方向に向かっています」
続く