年々早くなっているような桜の開花日。日本気象協会の3月18日の発表によると、今年は名古屋に次いで東京が全国で2番目に早く、3月21日に開花すると予想している。桜前線もくずれているような気がする。このまま温暖化が進めば2月に咲く日も来るような……。

「2月に咲くことはないと思います。早くても3月上旬になるくらいでしょう。その代わり、桜が満開にならない地域が出ると予想されています」

こう言うのは、2100年までの桜の開花を研究している伊藤久徳氏。

「桜の花芽は前年の夏にでき、その後“眠り”に入り、成長が止まります。そして、冬に気温が低い日が一定期間続くと“目覚め”が起こります。

これが休眠打破と呼ばれるものです。暖冬で休眠打破に必要な低温が得られないと休眠打破が遅れ、かえって開花が遅れることがあります」

暖冬になると開花時期が早まるとばかり思っていたが、逆に遅くなるのだとか。

その典型の一つが、’07年の開花状況。この年は暖冬で、東京では3月20日に開花したが、鹿児島で開花したのは3月30日。

「休眠打破がうまく進まないと、開花から満開までが長くなる傾向ももたらします。

1本の木の中の花芽に個体差があるからです。そのため、休眠打破が進むぎりぎりの温度だと、ある花芽は休眠打破が進んだのに、ほかの花芽は進まなかったりするからです」

開花日とは標本木で5〜6輪以上咲いた最初の日、満開とは標本木で約80%以上咲いた状態をいうが、暖冬では、暖かい地域においてはバラバラと休眠打破するために開花日から満開日までの期間が長くなり、南の地方ほど満開日が遅くなる傾向にあるのだとか。

’20年も暖冬だったが、この年は鹿児島の開花日は4月1日。仙台は3月28日で鹿児島が仙台よりも遅い開花となったのは初めてだったそう。しかも、鹿児島では満開日が4月19日。開花日から18日も経ってから満開になったのだ。これは、これまでの最遅記録だという。

3月に入ると、桜前線の北上予定がニュースになる。しかし、南ほど開花が遅くなるということは、“桜前線の北上”はなくなるということか。

「すでにそうなっています。鹿児島の平年の開花日は3月26日。福岡や東京の平年の開花日はそれぞれ3月22日と24日。実際、ここ数年福岡や東京が全国でいちばん早く開花している年が多くなっています」

温暖化の大きな原因は大気中のCO2の増加。現在のペースでCO2が増え続けると2100年には2.0〜3.0℃気温が上昇するという予測もある。こうなったとき、桜はどうなるのか。

「東北地方を中心とした北日本では今から2〜3週間開花が早まり、南九州など温暖な地域では1〜2週間遅くなるでしょう。関東以西では、今とほぼ変わらない。

その結果、3月25日から4月1日の1週間で東日本から九州北部の広い範囲でいっせいに開花すると予想しています」

80%以上咲けば“満開”だが、バラバラと休眠打破し、バラバラと咲き始めると満開にならない。八丈島など、すでに満開にならない地域も現れているという。

そういえば梅や桃も、桜と同じバラ科。休眠打破をする植物だ。温暖化が進むとうまく休眠打破できなくて、花が咲かず、結果実らなくなってしまう可能性がある。ほかの作物にだって影響は出るだろう。

桜といえば、関東地方では入学式を彩る花だったが、最近は入学式には散り終わっていることもある。桜前線の北上もなくなる。春の風景が変わりつつあるようだ。

「これからは今までの常識が常識でなくなる時代、過去の経験が役立たなくなる時代です。豪雨がたびたび起こり、堤防を整備する必要に迫られているけれど、何mの堤防を作れば安心か判断をすることができません。経験をもとに考えることは、間違いを引き起こす可能性もあるのです」

インフラも心配だが、去年の酷暑・水不足でお米も大打撃を受けた。漁場も変わってきている。満開の桜が見られなくてさみしいなんて言っているだけではすまないのだ。

「桜の咲き方の変化は、温暖化の影響の象徴。温暖化を招いたのは人間なのですから、これを阻止するのも人間にしかできない。『年々咲くのが早くなるね』と思うだけでなく、次の世代に環境を引き継いでいくためには、どうすればいいか考えてもらえたらうれしい」

以下ソース
https://friday.kodansha.co.jp/article/364427