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「…こないだの11月の連続爆弾テロ覚えているか?」
「え?あっ…えぇ、確か東都タワーで通常なら現場に出るはずでない警視が
前線に出て解体の指示を出していた時のですよね。」
「あぁ、あのときの犯人は3年前と7年前にも爆弾テロを起こした。
その時に殉職したのが松田と萩原だ。」
「…」
11月の犯人逮捕で自分ら機動隊は大分てんやわんやだったわけなのだから3
年前と7年前の事件についても新人なりに詳細は聞いて知ってはいるのだろう。
最初に殉職したのが萩原。
あいつはよく笑うやつでな、人当たりもいいから女によくモテてたんだが
そのせいか女を勘違いさせてトラブってたなぁと語り、樫井は昔を懐かしみ笑った。
よく防護服を嫌がり、樫井に叱られていた男はそれが命取りとなり殉職した。
もっと厳しく指導しておけばと樫井は自分を責めたことを今でもよく覚えている。

「そして3年前の杯戸町の観覧車で殉職したのが松田だ。」
サングラスをしていたやつの方な?あいつは見た目の割に正義感が強くてな、
ただ如何せん人に対してストレートに言い過ぎるところもあるから仲間内でも揉めることがあって
よく俺が仲裁したもんだが本当に生意気でな〜と言葉を続ける。

「ただ、親友の萩原が死んでからあいつは変わっちまったんだ…」
7年前の萩原の殉職から松田は特殊犯係に転属希望を出し続けた。
それは萩原の敵を討つためのものだということが明らかで何度も松田に冷静になれと説得したが、
4年目にしてついには樫井も折れて異動を認めた。
だが、冷静さを失った松田の頭を冷やすためにも別の係に配属してほしいと上には告げ、
向こうで松田の上司にあたる目暮警部にもよろしく頼むと告げていた。
しかし、転属からわずか6日後に松田は親友の仇をとれないという無念を残して殉職した。その命と引き換えに大勢の命を救って。
松田の葬式のことは昨日のように鮮やかに残っている記憶だ。
祭壇に置かれた遺影、空っぽの棺桶、泣き崩れる部下や遺族。その全てがまるで非現実的だった。
「俺みたいな老いぼれより早く死んじまいやがって…」
そういって自然と涙がこぼれてきたのは今でも忘れない。

「こないだの爆弾テロは犯人があいつらの命を奪った奴だったからな。
やっとあいつらに顔向けできる。」
あのときは本来の立場上、現場で直接指示をとるわけではないのだが
松田が機動隊から異動する前に残していった松田が研究した爆弾の解体のノウハウの書を元に樫井は更なる研究を続けたこともあり、
どうか自分にやらせてほしいと周りを説得した。
想定外なことに解体は小学生に任せて自分が解体指示するということにはなったが、
無事に解体が済まされて安堵したのも記憶に新しい。

「松田のことはあいつは命を懸けて多くの人を救ったわけだから
それは警察官として立派なことだと思うし悪いとは言い切れない。」

でもな、警察官ということを抜きにしてただの上司としての立場からすると思っちまうんだよな
…死に急ぐなよと言うと樫井は目を伏せた。
犯人が捕まった今、改めて考えるのだこれで本当によかったのかと。
指導がきっちりしきれなかったこと、最後まで引き留められなかったこと今でも悔やんでも悔やみきれない。

「俺たちの仕事は確かに国のため文字通り命を懸けなければならないこともある仕事だ。
ただな、使いどころだけはくれぐれも間違えるんじゃない。」
いいな?と樫井が告げると新人は姿勢を正すとビシッと敬礼をした。
言葉はないが真っ直ぐと樫井を見るその眼差しに樫井は満足そうに微笑み、さぁ飯でも食いにいくかと声をかけた。

二人が去ったあたりを木枯らしが吹き、落ち葉が舞った。