せっかくなので供養するで

※沖安
※安室が沖矢を疑っていない世界
※🐰睡眠注意

「運命の人に出逢えなかった人ってどうなると思います?」
突然の言葉に珈琲を入れようとした手を止め、安室は顔をあげる。

「なんですか急に?」

ふっと笑みを浮かべながら応える視線の先には一人の男がカウンター席に座っていた。

「いえ、最近見た映画の話です」
「さっきの質問からしてラブストーリーものですか?」
ええ、まあと男が応えると沖矢さんがそういうの見るなんて意外ですねと言葉を述べると視線をコーヒーカップへと戻し珈琲を注ぐ。
カップに注がれた珈琲にはぼんやりと自らの輪郭が浮かんでは揺れまた消えていく。

「…正直運命の人っていうのがピンとはこないんですよね。」
運命の人でなくても出逢った人で相性良ければそれで十分だと思いますけどねと安室は述べ、男の元へと珈琲を運ぶ。
運命の人なんて、まるで蜃気楼の様なまやかしを信じられるほどの子供でもない。
むしろ現実主義である安室にとってはあまり考えたこともない存在だ。

「安室さんらしい考えですね」
男はそう言って出された珈琲を口へと運ぶ。芳醇な香りが鼻をくすぐり、舌へは酸味が広がる。

「そういう沖矢さんはどういう考えなんですか?」
「私は見つかるまで探しますね」
「おや、随分情熱的なんですね」
亡者のようにはならないでくださいよと安室は茶化したように笑い、ちょっと資材を取りに行くので席を外しますねと告げ奥へと向かった。



「大丈夫ですもう見つかってはいますから。」

誰にも届くこともない言葉を告げ、男は珈琲をまた口へと運んだ。