それで用が済んだら、死体は食べてしまう。
これは俺も聞いただけの話だが……でも実際に、あいつらに引き込まれた死体が上がることは一度もなかったから、そのとおりなんだと思う。

「怖い。本当に怪物なのだな……」

 ぼんやりと呟く杏寿郎に、猗窩座がくすりと笑った。

「じゃあ、男だけを襲うのですね? 繁殖の相手が欲しいのだから」
「さあ……だったら俺の父はともかく、どうして母や兄の嫁まで浚ったんだろうな」
「あ……」

 杏寿郎は、小さく喘いで、なにも言えなくなる。
黙り込んでしまった杏寿郎を余所に、猗窩座が、空いた皿を洗浄機に放り込みながら言った。

「船に乗せてやるから、本土に戻れ。本土に行けば、三時間に一本ずつの東京行きのバスがある。バス代は出してやるよ」

 しかし杏寿郎は、そろそろと猗窩座の顔色を窺ったあと、思い切って口を開く。

「あの、もう少しだけ、ここに置いていただけないだろうか?」
「なぜだ?」
「もう一度、人魚が見たいんです」

 猗窩座は、呆気にとられた様子で杏寿郎を見た。
そして、窓の外を指さす。


「あっちに行けば、人魚の死体が山ほど積んである。それでいいだろ?」

 杏寿郎は、頭を振った。

「そういうのではなく、生きてるの」

 猗窩座が、心底呆れた様子で笑う。
はッ……本当に危ない奴だな、お前。
そう呟きながら。