そこでは、インターネットで生活用品を購入したり、市民会館で預かってもらっていた宅配品や新聞を回収したりした。
猗窩座は、本土でも『人魚狩りの青年』で通じるくらいに有名だった。町の人々は、孤独で端整な人魚ハンターに好感を示して、いろんな総菜や農作物などを惜しむことなくお裾分けしていた。
猗窩座がインターネットで買い込むものは、主に衣服類や靴、本やDVD、自作武器に必要な部品などだった。
あ、そしてマンガも。
杏寿郎が居候を初めてからの数日間、猗窩座は、まったく杏寿郎の相手をしてくれなかった。
杏寿郎をただの食客扱いするだけで、話しかけてもくれない。
だから杏寿郎は、昼は島を探検し、夜は本棚いっぱいのマンガを片っ端から読み倒すことで暇を潰していた。
しかし、いい加減マンガにも飽きて、居候開始から一週間が経ったある日のこと、結局杏寿郎は、猗窩座に向かって、ストレートにこう言い放つ。
「俺にも構ってくれませんか?」
そのとき猗窩座は、刈払機を改造して武器を造っているところだった。
「俺さ、あのとき電動ノコギリ持ってたのに、怖くなかったのか?」
後日、猗窩座がそう尋ねると、杏寿郎は、
「電動ノコギリより、ずっと退屈したままで過ごすことの方が怖かったんだ」
と、答える。
猗窩座には理解できない感覚だったが、理解できないからこそ、すぐに杏寿郎のことが気に入った。
人魚狩りは、やはり楽しいとは言いがたい、ただ毎日繰り返されるだけのルーティンワークだったから。
電動ノコギリを境に、杏寿郎は、猗窩座の日常に、自然と溶け込み始める。
猗窩座より早く起きて朝食を準備したり、掃除や洗濯も代わりに受け持った。
人魚の血に濡れそぼった服には、長い間、怖くて手が出せなかったが。
二人の主な会話は、杏寿郎が猗窩座に人魚の生態を尋ね、猗窩座がそれに答えるという形式だったが、時間が経つにつれて、二人の共有する部分も少しずつ増えていく。
杏寿郎が敬語を止めて、完全に親しくなった日から、杏寿郎は、人魚狩りに向かう猗窩座を気をつけてと送り出し、夜遅くまで猗窩座の帰りを待つようになった。
猗窩座は、家でだれかが自分の帰りを待っているという家族の温もりを久しぶりに取り戻すことができた。