「そうなんか。ほんなら、いっぺん人魚狩りに連れて行こか。人魚なんか腐るほど見れるで」
「ダメだ。連れて行こうとするな。こいつは、人魚の相手なんて絶対できない」
「猗窩座、つれないやっちゃなあ。ええわ、わいもおまえの友達なんか手ェ出さへんわ」

 そう言いながらも、前田の顔は、にこにこと笑ったままだった。
人の良さそうな笑顔である。
 前田おじさんは、ほかに幾人かの船乗りとチームを組んで、かなり昔から人魚狩りを続けてきたと言う。
国内にいくつもない人魚の涙の供給元でもあった。
狩りのノウハウは伏せているものの、業界では、かなり名高い人物であるらしい。

「おまえさんもこいつの事情知ってるか? こいつが初めてわいのところに来たとき、目から火花が散りそうな気迫でなあ。
この気迫なら人魚なんかなんぼでも捕りよるわ思うて、わいがいろはから教え込んだんや。
弟子なんか滅多に取らへんのだがな、こいつはちと違てたっちゅうわけや」

 しかし、猗窩座がそれ以上は過去の話をしたがらなかったので、話題は、そのまま前田の人魚狩りの話に移っていった。
 若い頃、初めて人魚に会ったときから始まって、同士を募って人魚狩りを始めた話。
これまで出会った人魚たちや、それに絡んだ武勇譚まで。
話の種は、尽きることがなかった。
杏寿郎にとっては、ただただ興味深い話ばかりである。

「わいらがどないにベテランでもな、人魚狩りが命懸けの仕事っちゅうことは変わらへん。
これまで何人も死んでしもてるし……ちとでも油断したら、海に引きずり込まれるんは一瞬やで。
わいもおまえの腕前は信じとるがな、猗窩座、ようけ気ィつけへんといかんで。
おまえの事情はようわかっとる。
でもな、おまえの意志だけではどうにもならへんちゅうことは、おまえがいちばんわかっとるやろう」

 それが、その日、前田が最後に言った言葉だった。
 船に戻る道すがら、杏寿郎は、猗窩座にそっと尋ねる。

「昔のこと……話してくれないか? 君が人魚を狩るようになったときの話」