そしたら、南海の人たちも、みんな俺のことを覚えてて。
ご不幸があった、あのときの青年じゃないかって。
そこで新しく住むところも見つけて、町の人たちにあれこれ聞いて回ったんだ。
船も買わないといけないし、操舵術も習わないといけないしな。
 そうしてるうちに、前田と知り合ったんだ。
なんで船が欲しいんだって訊かれて、人魚を狩るためだって答えたら、ついて来いって言われてね。
そのまま前田のチームに入れてもらって、船の動かし方とか人魚狩りの技術を教えてもらった。
銛投げの練習は、本当に死ぬほどやったな……三ヶ月くらい修行してから初陣に出て、それから二年くらいは、前田のチームで人魚を狩ってた。
 でも、前田の狩りは涙を採るための狩りで、俺は……ちょっと違うだろ。だから、どんどんもどかしくなってきてな。
母さんを拐った人魚だけは、絶対に狩らないといけないし。
だから前田に、「もう止める。これからはひとりでやる」って言って、船を一隻買ってこの島に来たんだ。
金はたくさんあったし。
ほら、涙って高く売れるだろ。

 その頃は、もう……この島は荒れ放題だった。
俺の家族が休暇で来たときが、人魚がこの島に出没し始めてた時期だったんだけど。
あいつらがここに巣くったせいで、毎晩惨事が起きるもんだから、島の人たちも耐えられなくなって、みんな本土に逃げて行ったんだ。
 島はもうガラガラで、電気もなにも全部切れた状態だったんだが、村長がいろいろ措置を取ってくれて……俺しか住んでないのに、電気も引いてもらったのだ。
ほかにも、いろいろと便宜を図ってくれてな。
人魚の涙をいくつかやったら、ずいぶん喜んでくれた。
 まあ、とにかく、そうやってひとりで暮らし始めたんだ。
ひとりで狩りなんかしたら、すぐに死ぬんじゃないかと思ってたが、習ったとおりにやったら、やれないこともなかったな。

 そうしてるうちに、ついに母さんを殺した人魚を見つけたんだ
。あぁ、狩った。
あそこの壁に、皮が掛けてあるだろ。あれが母さんを拐った人魚だ。
そう、青いやつ。
あれは生け捕りにした、網で。
滅茶苦茶大変だったけど、とにかく捕まえて、陸に上がってから殺したんだ。
全身が必要だったからな。
 それで、どうしたのかって? 
ああ、食べたよ。
殺してから何日もかけて全部食べた。人間の上体は豚肉みたいな味で、下は見た目どおりに魚だったな。
ものすごく不味い魚。
冷凍室で一年くらい眠ってた鱈みたいな味だぞ、ホントに……。
殺すのより食べる方が大変だった。
豚肉みたいな味の方は、まあ、そこそこ食べれたけど、下の魚の方は本当に大変だった、不味くて。
最初は刺身にしたり、色々和えたり、焼いて食ったり、蒸して食ったり……鍋にもしたかな。
食べきるまで何日もかかった。
俺、それからは、鱈だけは絶対に食べない。
 最後の一切れを噛みながら……あのとき、かなり泣いた。
母さんや家族に赦しを乞いながら、あの固い肉を噛んでた。
赦してもらえたかはわからないけど……少なくとも家族に合わせる顔はできたかなって。
そういう気持ちになったな。