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【荒波と旋風】
​「あははっ!ウミネコくん、ウケる〜。その帽子、そんなに深く被ってて前見えてんの〜?」
​フロイドが長い手足をぶらぶらさせながら、隣に立つルークの帽子をひょいと持ち上げる。
ルークはそれを受け流すどころか、弾けるような笑顔で応えた。
​「ノン!ムシュー・愉快犯! 視界を狭めることで、五感は研ぎ澄まされる。君の放つ『気まぐれな潮風』の香りを、より鮮明に感じるためだよ!」
​「えー、何それ。意味わかんねぇ。……あ、ヒトデちゃん来た。ねぇ、絞めていい?」
​フロイドの視線の先には、課題の代行を頼みに来たのか、おどおどした様子のハーツラビュル寮生が立っていた。フロイドの目が、獲物を見つけた捕食者のように細められる。
​「待つんだ、フロイドくん! 彼の歩き方を見てごらん。右足にわずかな躊躇いがある……。あれは、大切なものを失うことを恐れている『迷える仔羊』のステップだ!」
​ルークは素早く生徒の背後に回り込むと、耳元で愛を囁くように告げた。
​「ボーテ(素晴らしい)! 君のその絶望に染まった瞳、まさに夕暮れ時の湖面のようだ。さあ、その美しさをアズールくんに捧げる勇気はあるかな?」
​「ひ、ひいいっ!?」
​生徒が悲鳴を上げて逃げ出そうとした瞬間、フロイドの長い腕がその肩をガシッと掴む。
​「逃げんの? ダメだよ〜。ウミネコくんがせっかく褒めてくれてんのにさぁ。……ねぇ、アズールのところ行くよね? 行かないなら、俺がここで『ぎゅっ』てしてあげよっか?」
​フロイドの低い声と、ルークの情熱的な視線。挟み撃ちにされた生徒は、もはや白目を剥きそうになりながら、アズールの待つ奥の談話室へと吸い込まれていった。
​「ふふふ。今日も素晴らしい『愛』の勧誘ができたね、フロイドくん!」
​「ん〜、まあまあかなぁ。ウミネコくんと一緒にいると、飽きなくていいや。次、あっちのフグくんも追い込んでいい?」
​「もちろんだとも! 彼のトゲがどれほど鋭いか、一緒に確かめに行こうじゃないか!」