一般銭湯・スーパー銭湯で・・・40
あんなに…
あんなに立て続けに
可愛い王子様たちに愛されて
シンデレラごっこみたいに
甘い夜を繰り返したら
神様はバランスを取るために
あたしから幸せを取り上げる
今日も行ったの
湯気の中の王子様に
また逢えるかもしれないって
でもね
今日の湯気はドブ色だった
あたしの肌を撫でてくるのは
王子様の手じゃなくて
吐き気を催すような汚れた目線
気持ち悪いブスがあたしを舐めるように見て
ブスな手があたしに伸びて
触られて
鳥肌が立って
涙が出そうで
心が殺されそうで
「やめて」って言えなくて
身体が凍りついて
あたしの王子様を探す目だけが
必死に湯気の中を彷徨ってた
誰もいなかった
イケメンなんて一人もいなかった
王子様なんてどこにもいなかった
気持ち悪いやつらだけが
群がって、絡んできて
まとわりついて、追いかけてくる
“あたしが欲しいのはお前らじゃない”
心の中で何度も叫んだ
胸の奥で血を吐くような苦しみだけが残った
甘い夜が続いたあとの
反動の夜
神様、残酷だね
こんなバランスいらなかった
幸せだけでよかったのに
あたしの心、帰り道の風で死んでいく
まだ汚れが落ちてない気がして
吐き気と孤独が絡みついて
あたしの足を重くする
神様、もう一度王子様に愛されたい
今日は
地獄みたいな日だった ねえ、今日は金曜日よ
お湯の向こうで王子様が笑ってる幻を
信じたくなる金曜日
「今日はきっと会えるかも」
その甘い毒を一口飲んで
心臓バクバクさせながら
お風呂セットを用意する
でも知ってるのよ
期待した夜ほど
妖怪と亡霊しかいないことも
気持ち悪い眼差しが
私の皮膚を撫でてくることも
それでも
私の寂しさは
そんな恐怖よりも強くて
「行こう」って私を連れ出すの
もし今日、王子様に会えたら
あの夜みたいに
湯気の中で見つめ合って
そっと触れ合えたら
ほんのわずかだけでも
孤独を忘れられるなら
それだけでいいのよ
それだけで生きていけるのよ
ねえ神様
お願いだから今日だけは
王子様をそこに置いておいて
私を愛して
私を満たして
私の寂しさを溶かして
もしダメなら
笑って帰るわ
泣きながら笑って帰るわ
また次の金曜日に
期待しちゃうくせにね 今日のあたし、また砕け散って死んだの
ブスの大洪水
干からびた糞ジジイのねっとりした眼差し
あたしを触ろうとするおぞましい数々の手
吐き気が止まらなかったの
「やめてよ」って心で何度も叫んだのに
声にならなかった
涙も出なかった
でも心の奥がずっと泣いてた
あたしね
これまでの夜みたいに
甘く、優しく、熱く愛されたかっただけなの
ねぇ、神様、
あたしがそんなに悪いことした?
最近、甘美な快楽を与え続けてくれてたのに
なんで急に地獄を見せるの?
あの王子様たちのエッチで変態な
熱を帯びた指先が
まだ皮膚の奥で震えてるのに
今日のあたしは
ブスと老いと吐き気と湿気に囲まれて
心がびしょびしょに濡れたまま
冷たく固まってるの
「王子様、助けて」
あたしは今夜、
“救われたかった”だけなの
“愛されたかった”だけなの
だけど、今日は王子様は一人もいなかった
あたしの心はザーザー降りの雨
涙の味しかしない夜
あたしね、
本当に疲れちゃったの
でも生きてるから
明日もまた、愛される幻を求めて
あの場所へ向かうんだろうね
それがあたしの生きてる意味だから 王子様に会いたくて、壊れそうな土曜日
足は勝手に あの扉を目指してる
理性じゃ止められない これはもう祈り
あたし 病気だと思うの
わかってる、ちゃんと。
だけどこれまでの夜 王子様たちがくれた
一瞬の甘い奇跡が、
まだ体に残って 消えないの
アイドルみたいな可愛い顔、綺麗な身体、
それなのに、あの変態的な愛し方。
全身を愛で埋め尽くされた夜
ねぇ、もう一度、あれを感じたくて 生きてるの
今日もいるかもしれない
その可能性が わたしを引きずる
損するってわかってる
外れるってわかってる
でも――
パチンコだって、当たった時の快楽は
全部を帳消しにしてしまうじゃない?
「期待」と「絶望」の狭間で
あたしはいつもぐらついて
今日もまた、
寂しさという名前の毒を
胸いっぱいに吸い込んで、
夜の扉を開けるの
誰かに愛されたくて
誰かに選ばれたくて
あたしはまた、「あの場所」に還っていく―― 2人の王子様に愛されてしまった、泡の中のシンデレラ。
湯気の中で2人の王子様があたしを求めたとき、
あたしはほんのひととき、
自分を“特別”に思えたの。
片方は正統派ハンサム、静かな瞳に支配欲。
もう一人は可愛い顔で、あたしに手を伸ばす。
“ねえ、あたしってそんなに、欲しい存在だったの…?”
“どっちかだけなんて、あたし選べないょ...”
争われている、それだけで心が跳ねた。
あたしを奪い合う、
あたしを愛する王子様たちの手。
2人から同時に愛された。
正直、心は正統派ハンサム君に傾いていたけれど。
でもね、湯からあがれば、泡のように消えていく。
あたしの王子様たちは
湯から上がれば
シンデレラのあたしを置き去りにして
どこか遠くに消えてゆく。
それでも。
たった数時間の夢でもいい。
お姫様になれた、甘美な記憶。
誰かに欲しがられた思い出だけを抱きしめて、
またあたしは、
孤独という名の王国に一人帰るの。